はじめての感覚でした。
あんな暮らしがしたい、こんな暮らしもしたい、こういう人間でありたい。ずっと考えていたこと、うまく考えられていないこと、点、点、点と聞かれるがままに話していくと、するするりと一本の線につながっていく。そのスケッチを見ていると、あやふやなイメージがたちまち形になって、夢を叶えるために今やるべきことが見えてくるのでした。
スケッチジャーナリストの真子さんのお店「WANDERLUST」では、そんな体験が味わえます。その名も“イメージスケッチ”。描かれた未来図を部屋の扉に飾れば、毎朝その夢に向かって進んで行ける気がするのです。
「OND WORK SHOPの『木村さん』が言ってくれたの。お店をオープンする過程で何度も壁にぶつかったけど、いつも真子ちゃんに描いてもらった絵に立ち返るんだよねって。あのときのワクワクした気持ちを思い出すんだよねって。それが嬉しくて」
好きなことを仕事にしようとか、何かをはじめようとしたとき、“そんなの無理に決まってる”と否定する人にぶつかります。自分で自分に言ってしまうこともあります。現実的な課題と向き合うことも大切ですが、“できる!”と信じて色んな可能性と向き合うこと、それも同じくらい大切なことかもしれません。
「夢が見られる場所をつくりたいな。WANDERLUSTは“シェアショップ”だから、紅茶を調合する『夕美さん』や、フローリストの『聖子さん』もいて、みんなが“主役はお客さん”というイメージを持ってるの。ぼんやりした夢でも、モヤモヤした想いでも、聞かせてもらったことを、線とか、色とか、香りとか、色んな方法で見える形にしていきたいなって思ってる」
真子さんは、長野で最も“花”のあるイベント「善光寺花回廊」のポスターをはじめとするアートディレクションも手がけています。
道路に花びらで絵を描く“花キャンパス”では200名のボランティアとともに制作し、イベント当日は、花キャンパスの真ん中でライブパフォーマンスを実施。透明なアクリル屏風の中でペンを握り、行き交う人たちをスケッチして、描かれた人と自然に目が合って近づいてきてくれたら、その人に色をつけてもらう。つまり、真子さんが中から線を描いて、お客さんが外から色を塗る。そうして、お客さんとコミュニケーションをとりながら完成した作品は八十二銀行大門町支店で展示されています。
保育園に行く前から絵を描いていたという真子さん。「毎日書きなさい」と言われた絵日記を、小、中、高、と欠かさず描き続け、大学ではデザインと建築を専攻。そしてタスマニアの大学院へ。
「タスマニアに行ってからも、描かない日があると気持ち悪くなるくらい描いてて。一週間で一冊が埋まったりしたなぁ。ペースはどんどん上がっちゃって1日で30枚描いた日もあったくらい」
時間や空間を即興で切り取ることがスケッチジャーナリストの真骨頂。音楽にあわせたり、詩の朗読にあわせたり、お店の内装にあわせたり。善光寺門前エリアのいたるところに真子さんの絵が飾られてもいたりして、その空間に見事に馴染んでいます。
好きなことに向き合い続けてきた真子さんから生まれているのは、絵描きやイラストレーターといった肩書きに収まらない、真子さんにしかできない仕事ばかりなのでした。
真子さんのお話を聞いていると、シェアショップをともにする『夕美さん』と『聖子さん』が外出先から帰ってきました。
ライター 志賀章人(しがあきひと)