世界でただひとつの物をプレゼントしたい。
その想いは善光寺門前にある「OND WORK SHOP」で叶います。ONDは温度。店主の木村真也さんは「お客さんと僕と。ふたりで話しながら物を作りたい」と話します。
「桜ちゃんというお友達にプレゼントがしたい、という相談があったんです。ハート形のコインケースを作りたいという話でしたが、何度かやりとりを重ねるうちに、長く使ってもらえる物がいいね、という話になって。シンプルな形の“桜色”のコインケースを作りました」
木村さんは革職人ですが、ネクタイピンを依頼された際には扱ったことのない素材を使うことにもなったという。
「プレゼントが部屋の片隅にあるほど悲しいことはありません。だからこそ、“これだ!”と思えるまで一緒に考えて作りたいと思ってます。擦り切れるまで使ってもらえる物を高い熱量で作りたいんです」
ちょうどそのとき、お客さんがやってきました。
“愛着のあるベルトのサイズが合わなくなったので、新たに革を足して長くする”という依頼をしていたらしく、その日は受け取りの日のようでした。完成したベルトを受け取ったお客さんは、パァっと花咲くように顔が明るくなります。「想像以上です! 本当にありがとうございます」それを聞いた木村さんも「よかったです」と嬉しさを隠し切れずに笑顔をはにかんでいます。そして木村さんは言いました。
「よかったら、余ったベルトの革を使ってバンクルを作りましょうか?」
「ええ! そんなことができるんですか!?」
余った革とはいえ、お客さんがベルトとして長年愛用してきた革。その場でお客さんの腕に巻き、サイズ感を確かめる木村さん。
「これはサービスしますね!」
「ありがとうございます! うわぁ嬉しいなぁ……本当にありがとうございます!」
木村さんよりお客さんのほうが「ありがとう」と言っている、そのやりとりが木村さんの“温度のある仕事”を何より表しているように思うのです。
東京で10年、革製品を大量生産する会社で働いていたという木村さん。30才を機に働く意味を見直したとき、自分が手がけた商品を使っているお客さんの顔が見られないことに違和感を抱いたという。
「自分のお店を持ちたいと思ったんですが、そこまでのお金はありませんでした。でも、貯めてからじゃ遅いと思ったんです。悩んでいたら、長野に“創業支援制度”があるって教えてくれた人がいて。それを使って半年でオープンにこぎつけました」
最初はひとりふたりしかお客さんが来なかった。それでも、一度来たお客さんが何度も通ってくれたり、この後登場する『真子さん』をはじめとしてお客さんがお客さんを連れてきてくれたり、たった1年でつながりが一気に広がった。そのスピードには木村さんも驚かされたという。
お店に並んでいる商品も、すべて木村さんが手作りした一点物。
「僕が思う革の良さは、使っていくうちにその人の味が出て、その人の歴史を表す物になるところ。ぜんぶ手縫いで作っているのですが、糸が太くて切れにくいだけじゃなくて、仮に切れても簡単に縫い直せるからなんです。善光寺門前エリアは昔から職人の町だったと聞いています。町の電気屋さんみたいな感覚で、壊れてもさっと直してもらえる。そういう店が好きなんです」
そこで頼んだものを一生使えるという安心感。お店に持って来れば直してもらえますが、自分で縫って直すこともできる。愛着とはそうして生まれるものなのかもしれません。
さて、木村さんが話してくれた『真子さん』とはどんな方なのか。会いに行ってみることにしました。
ライター 志賀章人(しがあきひと)