2006年、6代目に就いた阿左美さんは、100年以上続く氷卸の老舗として、「天然氷のおいしさをいかに伝えるか」を考えた。
阿左美さんによると、味覚は冷たいものに対して鈍感になるという。「常温で溶けたアイスクリームって、めちゃ甘いでしょ」。そのうえ、そもそも水には普通の人がハッキリ感じ取れるほど味の違いはない。そこで、氷の味や食感の引き立て役、シロップの素材に徹底的にこだわる道を選んだ。
「風味や香りなどが一定レベル以上のものを使わないと、かき氷がおいしくならないんですよ。素材によって味がぜんぜん変わっちゃう。だからシロップを作る時は、何度も試作をして素材を選びます」
厳しいテストを経て選ばれた素材を用いるシロップは、すべて自家製。例えば、生姜のシロップは、家族総出で生姜を絞る。台湾の黒落花生を使ったシロップを作る時は、スタッフみんなで皮を剝いた。
なかでも、阿左美さんが「一番、氷の良し悪しが伝わる」というシロップが、「蔵元秘伝みつ」。この「みつ」は、平安時代中期に清少納言が書いた「枕草子」に「あてなる(上品な)もの」として登場する、「削り氷」に入れた「あまづら」を現代風に再現したものだ。
ちなみに、これは「かき氷」に関する日本最古の記述で、あまづらは「甘葛」。原料のツタを煮詰めてできた「みつ」を氷にかけて食べたとされる。かつてこれを再現した番組があったそうで、現代では甘葛のかき氷は一杯数万円になってしまうという。
そこで、哲夫さんと阿左美さんは食のプロに「日本古来の砂糖ってなに?」と聞いてまわった結果、たどり着いたのが、徳島県や香川県などで伝統的に作られてきた和三盆。原料となる竹糖の汁を絞り、煮詰めたものを何度も練り上げることで、口どけが良く、きめの細かい上品な味に仕上がる。
「和三盆は甘すぎず、後味もスッキリしています。口に入れた時の溶け方もほかの砂糖とぜんぜん違う。これを使って、最もシンプルな食べ方で氷の味が際立つ現代のあまづらを再現しようと思いました」
未知の細道の旅に出かけよう!
冬にしか出会えない、寒さを忘れるかき氷