未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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戦国時代から氷を作る阿左美冷蔵の心意気 冬にしか出会えない、寒さを忘れるかき氷

文= 川内イオ
写真= 川内イオ、ファム フォン タオ
未知の細道 No.278 |10 April 2025
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#7氷づくりは農業

ここで、製氷方法について記そう。阿左美冷蔵は、長瀞町内を流れる川沿いに、ふたつの「氷池」を持っている。氷池は学校にある25メートルプールのようなもので、深さ約60センチのコンクリート製。ここに水を張って冬に凍らせる……という単純な仕事ではない。

まず、6月と10月に周辺の草刈り。次に、氷池にたまった落ち葉や砂を取り除き、きれいに洗う。その後、11月の半ばまで徹底的に氷池の補修をする。

「氷池は1929年から31年にかけて作ったもので、それだけ古いとひび割れや漏水があります。そこをモルタルで補修します。それから、今度は製氷池全体にモルタルを塗り込みます。男3人でやるんですけど、モルタルを塗ったモップが重くて大変なんです」

これで終わり、ではない。製氷池をきれいに保つために満水、排水、掃除を繰り返す。そうして、毎年12月3日に開催される秩父夜祭までに完璧な状態に整えて、本格的な寒さの到来を待つ。

ここから、本当の勝負が始まる。製氷池は水量が多く、いっぺんに凍りつくわけではない。表面は凍りやすいため、最初の頃、良く冷え込んだ日には一晩で1センチ程度凍る。水たまりに氷が浮かんでいる様子を思い浮かべると、わかりやすい。

しかし、氷が厚くなればなるほどその下にある水は凍りづらくなり、氷の厚みが10センチを超えると凍りつくスピードは半減する。阿左美冷蔵が氷を切り出す際の目標値は厚さ15センチだから、そこに至るまで、ジリジリと我慢、辛抱の日が続く。

ただ放っておけばいいわけではない。氷に異物が紛れ込まないように、毎日のように氷の表面を掃除する。雪も大敵だ。そのままにしておくと氷に混じって透明感が失われるため、すぐに取り除く必要がある。

ここまで手をかけても、曇りの日が続くと氷が溶け始める。雲が布団のような役割を果たして、地表の熱がこもってしまうのだ。これを放射冷却という。さらに、雨が降ると10センチあったものが一晩で4センチになったりする。製氷できるのは、ひと冬の間に最大2回。天気予報を睨みながら、いつ氷を切り出すのか、判断しなければならない。

製氷池で氷を切り出す作業。6代目の幸成さんが金属加工の工場に依頼して完成したオリジナルの機械を使用する。(画像提供:阿左美冷蔵)

「氷づくりは農業みたいなもので、経験と感覚が必要です。なるべく氷を厚くしてから取りたいけど、恐らく温暖化のせいで昔と気候が違っていて、最近は寒さが続きません。頼りの天気予報も最近よく外れるから、余計に難しいですね」

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

冬にしか出会えない、寒さを忘れるかき氷

最寄りのICから【E17】関越自動車道「花園IC」を下車
1日目
ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン一つ星で、参拝客が年間100万を超える宝登山神社で参拝。秩父鉄道の長瀞駅から出ているロープウェイで、宝登山ハイキング。下山後、阿左美冷蔵でかき氷を食べて、疲れを癒す。
宝登山神社
宝登山ロープウェイ
阿左美冷蔵
2日目
和船で荒川を下る「川下り」を体験。3社が運航しており、こたつを備えた船もあり、寒い日でも安心。帰りに阿左美冷蔵に寄り、前日と違う味を楽しむ。

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。