ここで、製氷方法について記そう。阿左美冷蔵は、長瀞町内を流れる川沿いに、ふたつの「氷池」を持っている。氷池は学校にある25メートルプールのようなもので、深さ約60センチのコンクリート製。ここに水を張って冬に凍らせる……という単純な仕事ではない。
まず、6月と10月に周辺の草刈り。次に、氷池にたまった落ち葉や砂を取り除き、きれいに洗う。その後、11月の半ばまで徹底的に氷池の補修をする。
「氷池は1929年から31年にかけて作ったもので、それだけ古いとひび割れや漏水があります。そこをモルタルで補修します。それから、今度は製氷池全体にモルタルを塗り込みます。男3人でやるんですけど、モルタルを塗ったモップが重くて大変なんです」
これで終わり、ではない。製氷池をきれいに保つために満水、排水、掃除を繰り返す。そうして、毎年12月3日に開催される秩父夜祭までに完璧な状態に整えて、本格的な寒さの到来を待つ。
ここから、本当の勝負が始まる。製氷池は水量が多く、いっぺんに凍りつくわけではない。表面は凍りやすいため、最初の頃、良く冷え込んだ日には一晩で1センチ程度凍る。水たまりに氷が浮かんでいる様子を思い浮かべると、わかりやすい。
しかし、氷が厚くなればなるほどその下にある水は凍りづらくなり、氷の厚みが10センチを超えると凍りつくスピードは半減する。阿左美冷蔵が氷を切り出す際の目標値は厚さ15センチだから、そこに至るまで、ジリジリと我慢、辛抱の日が続く。
ただ放っておけばいいわけではない。氷に異物が紛れ込まないように、毎日のように氷の表面を掃除する。雪も大敵だ。そのままにしておくと氷に混じって透明感が失われるため、すぐに取り除く必要がある。
ここまで手をかけても、曇りの日が続くと氷が溶け始める。雲が布団のような役割を果たして、地表の熱がこもってしまうのだ。これを放射冷却という。さらに、雨が降ると10センチあったものが一晩で4センチになったりする。製氷できるのは、ひと冬の間に最大2回。天気予報を睨みながら、いつ氷を切り出すのか、判断しなければならない。
「氷づくりは農業みたいなもので、経験と感覚が必要です。なるべく氷を厚くしてから取りたいけど、恐らく温暖化のせいで昔と気候が違っていて、最近は寒さが続きません。頼りの天気予報も最近よく外れるから、余計に難しいですね」
未知の細道の旅に出かけよう!
冬にしか出会えない、寒さを忘れるかき氷