十分な氷ができるまでに、だいたい1カ月。2025年は、厚さ14センチまで育てた第一弾の氷を1月12日に切り出した。その年によって収穫量が異なり、時には9月、10月ごろに氷が尽きてしまうこともある。その場合、別の氷屋さんから48時間かけて凍らせた「純氷」を仕入れて、かき氷を提供しているそう。
……ということは、阿左美冷蔵では1月後半から「採れたて」の天然氷を提供している。氷室で保存されている氷は夏になっても味は変わらないけど、なんとなくフレッシュな氷だとおいしそうに感じるのは、僕だけだろうか?
それにしても、である。今回の取材で阿左美さんが作ってくれたかき氷は、僕が知っているかき氷と見た目がぜんぜん違う。実はこれも、天然氷の特徴だ。
阿左美さんによると、「水は単体では凍らない」。なにか核になるものが必要で、製氷池の場合はコンクリートの壁だ。水は、壁を起点にして中心部に向かって凍り始める。壁際を底辺にした三角形がいくつもできて、頂点がどんどん尖って伸びていくイメージだ。これがあちこちからゆっくりと発生し、三角形が大きく成長したところでぶつかり合いながら、水面を覆って氷ができ上がっていく。
製氷池は広いから、凍りつく過程でできるひとつひとつの三角形も大きい。これを、「結晶が大きい」と表す。天然氷は三角形の一枚岩みたいなものになり、表面を削ると、鰹節に似た「薄い氷の皮」のような形になる。
急速冷凍機で凍らせた水は、そうならない。狭い空間で一気に凍ると、氷の三角形が同時多発的に生まれてすぐにぶつかり合うため、「結晶が小さい」。一枚岩というより小石の集合体のようなものだから、削った時に細かくシャリシャリした見た目になるという。
天然氷は、硬さも違う。
「水が氷になる時には、ろ過しても取り除けないような細かな不純物すら排除する性質があるんです。天然氷はゆっくり凍るから、丁寧に不純物が取り除かれて、純粋な氷になる。急速冷凍した氷は、あっという間に凍るからどうしても不純物を内包してしまいます。不純物が紛れ込んでいると、割れやすくなるのはわかりますよね。普通の飲食店で出される氷は噛むとすぐ砕けるでしょう。天然氷は硬いから、噛むとキューンッという感じで独特の歯ごたえがあるんです」
これで謎が解けた! 阿左美冷蔵のかき氷は極薄の布が折り重なっているような、不思議な立体感があった。それは、結晶が大きいから。そして、かき氷を撮影している間、暖房の効いた店内でも雪山のように凛とそびえ立ち、スプーンを差し込んだ時も崩れる気配がなかった。それは、氷自体の硬さが影響していたのだ。
未知の細道の旅に出かけよう!
冬にしか出会えない、寒さを忘れるかき氷