雅子さんにも、えほん村を続けてきた理由を聞いてみると、ドイツでの出会いや経験が今の「えほん村」につながっていると教えてくれた。強く記憶に残っているのは、イタリアの城に招待され、ヨーロッパ各国の絵本作家たちと食事をともにした夜のことだ。
「食事中に、“仲間の本”というタイトルがつけられたノートが回ってきたんです。みんなに続いて私もサインをしようと思ったら『雅子はダメだ。なにかあったら日本に帰りなさい』と言われました。私、すごく悲しくなって『どうして? 私たちは仲間でしょう?』と憤慨したんですね。でも、後から教えてもらったら、そのノートは『戦車の前に寝転ぶ人たち』の署名ノートだったの」
当時、世界は冷戦の真っ只中。ヨーロッパ内でも紛争が続いており、雅子さん自身も家のすぐ横を通る戦車を見てその大きさに慄いたことがあるという。
「『絵本を描いている人間は、武器を持たない』という決意の現れが、あのノートだったんです。あの時は寂しさを感じていたのに、意味を知ったあと『それでもサインします』と言えなかった自分の臆病さに後悔もしています」
寂しそうに遠くを見つめた雅子さんが、「でも、だからこそ」と続ける。
「あのノートにサインした人たちの本を、私はここで大切に預かっているんです。国境を越えて、彼らが考え続けた『平和とはなにか』『人の命はなんたるか』という問いが、やっぱりヨーロッパの絵本にはあります。その証をずっと届けていくためにも、えほん村はなくしちゃいけないと思ってます」
えほん村には、世界中の絵本が集まっている。各国の作家たちから送られてきたものでもあり、雅子さんにとっては“仲間の本”へのサイン代わりの場所でもあるのだ。
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八ヶ岳の「こどものこころ」を訪ねて
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