未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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八ヶ岳の「こどものこころ」を訪ねて 世界中の“魔法”が集まる「えほん村」

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.277 |25 March 2025
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#10この場所は、きっと「なくしてはいけない」

日本の絵本だけでなく、世界中の絵本が集まる。

雅子さんにも、えほん村を続けてきた理由を聞いてみると、ドイツでの出会いや経験が今の「えほん村」につながっていると教えてくれた。強く記憶に残っているのは、イタリアの城に招待され、ヨーロッパ各国の絵本作家たちと食事をともにした夜のことだ。

「食事中に、“仲間の本”というタイトルがつけられたノートが回ってきたんです。みんなに続いて私もサインをしようと思ったら『雅子はダメだ。なにかあったら日本に帰りなさい』と言われました。私、すごく悲しくなって『どうして? 私たちは仲間でしょう?』と憤慨したんですね。でも、後から教えてもらったら、そのノートは『戦車の前に寝転ぶ人たち』の署名ノートだったの」

当時、世界は冷戦の真っ只中。ヨーロッパ内でも紛争が続いており、雅子さん自身も家のすぐ横を通る戦車を見てその大きさに慄いたことがあるという。

「『絵本を描いている人間は、武器を持たない』という決意の現れが、あのノートだったんです。あの時は寂しさを感じていたのに、意味を知ったあと『それでもサインします』と言えなかった自分の臆病さに後悔もしています」

寂しそうに遠くを見つめた雅子さんが、「でも、だからこそ」と続ける。

「あのノートにサインした人たちの本を、私はここで大切に預かっているんです。国境を越えて、彼らが考え続けた『平和とはなにか』『人の命はなんたるか』という問いが、やっぱりヨーロッパの絵本にはあります。その証をずっと届けていくためにも、えほん村はなくしちゃいけないと思ってます」

えほん村には、世界中の絵本が集まっている。各国の作家たちから送られてきたものでもあり、雅子さんにとっては“仲間の本”へのサイン代わりの場所でもあるのだ。

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

八ヶ岳の「こどものこころ」を訪ねて

最寄りのICから【E20】中央自動車道「小淵沢IC」を下車
えほん村は、2歳以上550円で閉館まで絵本を楽しむことができる。途中でランチやお茶をしに外へ出て戻ってくることも可能なので、近くのカフェや飲食店などでごはんを食べて、また絵本の世界に戻っていくのもいいだろう。えほん村では、日によって「絵本ライブ」と呼ばれる読み聞かせや、マリオネットショーなどのイベントも開催しているので、チェックしてから行ってみよう。
ehonmura 0才~100才の子どものこころへ

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。