渡独時に思い描いていたとおり、絵本作家となって帰国したふたり。そこでふと疑問に思ったのは、えほん村で必ず目に入る太三郎さんの木工作品たちだ。念願だった絵本作家の道を歩み始めた後に、なぜ木工を?
「ちょうど帰国した頃、東急ハンズ(現ハンズ)が『手で考えよう。手で見つけよう。手で創ろう。』というキャッチフレーズで東急ハンズ大賞を始めていて。ちょっと出してみるか……と思ったら賞をいただいちゃったんです。経験もなにもないのに」
審査員特別賞を受賞したのは「サイクリングマン」と呼ばれる、太三郎さんの代表作。トイレットペーパーホルダーに設置すると、紙を引き出すたびに一輪車のおじさんが走り出すという、ユーモアたっぷりの作品だ。
受賞をきっかけに、太三郎さんには全国の大手企業からモニュメント制作などの依頼が相次ぐように。その後も、さまざまな大会に出品すれば賞がつく状態だったが、太三郎さんとしては喜んで進みたい道ではなかったようだ。
「仕事の依頼がどんどん来ちゃって、絵を描いてるよりもそっちが多くなっちゃったんですよ。それで、いつのまにか木の造形作家に……。本当は絵を描いて認められたかったという気持ちが強かったかな」
少し不満そうな太三郎さんに、雅子さんが「賞がすべてじゃないからね」と声を掛ける。実際、絵描きとしての感性があったからこその木工作品なのではないだろうか。
「たしかに、僕としては平面でも立体でも考え方は同じ。木でなにかを作っている時も、絵の感覚で物を作るんです。発想の面白さを評価されてきたのは、そういう部分もあるのかもしれないな」
えほん村の一角にあるギャラリーショップに並ぶ太三郎さんの作品を見ると、たしかに色使いや曲線美が“絵のよう”だ。太三郎さんの絵本から飛び出してきた動物たちが木工作品になっているものもある。降りてくるアイディアを、筆で表現するか、ナイフで表現するか。太三郎さんにとっては、それだけの違いなのだ。
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八ヶ岳の「こどものこころ」を訪ねて
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