未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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八ヶ岳の「こどものこころ」を訪ねて 世界中の“魔法”が集まる「えほん村」

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.277 |25 March 2025
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#7絵を愛する作家の新たな表現方法

  • イキイキとした動物たちの表情や曲線の文字盤が、木製というより絵のようだ。
  • 絵本の中から飛び出たような太三郎さんの木の作品。

渡独時に思い描いていたとおり、絵本作家となって帰国したふたり。そこでふと疑問に思ったのは、えほん村で必ず目に入る太三郎さんの木工作品たちだ。念願だった絵本作家の道を歩み始めた後に、なぜ木工を?

「ちょうど帰国した頃、東急ハンズ(現ハンズ)が『手で考えよう。手で見つけよう。手で創ろう。』というキャッチフレーズで東急ハンズ大賞を始めていて。ちょっと出してみるか……と思ったら賞をいただいちゃったんです。経験もなにもないのに」

審査員特別賞を受賞したのは「サイクリングマン」と呼ばれる、太三郎さんの代表作。トイレットペーパーホルダーに設置すると、紙を引き出すたびに一輪車のおじさんが走り出すという、ユーモアたっぷりの作品だ。

受賞をきっかけに、太三郎さんには全国の大手企業からモニュメント制作などの依頼が相次ぐように。その後も、さまざまな大会に出品すれば賞がつく状態だったが、太三郎さんとしては喜んで進みたい道ではなかったようだ。

「仕事の依頼がどんどん来ちゃって、絵を描いてるよりもそっちが多くなっちゃったんですよ。それで、いつのまにか木の造形作家に……。本当は絵を描いて認められたかったという気持ちが強かったかな」

少し不満そうな太三郎さんに、雅子さんが「賞がすべてじゃないからね」と声を掛ける。実際、絵描きとしての感性があったからこその木工作品なのではないだろうか。

「たしかに、僕としては平面でも立体でも考え方は同じ。木でなにかを作っている時も、絵の感覚で物を作るんです。発想の面白さを評価されてきたのは、そういう部分もあるのかもしれないな」

えほん村の一角にあるギャラリーショップに並ぶ太三郎さんの作品を見ると、たしかに色使いや曲線美が“絵のよう”だ。太三郎さんの絵本から飛び出してきた動物たちが木工作品になっているものもある。降りてくるアイディアを、筆で表現するか、ナイフで表現するか。太三郎さんにとっては、それだけの違いなのだ。

  • マリオネットもすべて、太三郎さんの作品。2階に並べられたものは、近くでじっくりと見ることができる。

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

八ヶ岳の「こどものこころ」を訪ねて

最寄りのICから【E20】中央自動車道「小淵沢IC」を下車
えほん村は、2歳以上550円で閉館まで絵本を楽しむことができる。途中でランチやお茶をしに外へ出て戻ってくることも可能なので、近くのカフェや飲食店などでごはんを食べて、また絵本の世界に戻っていくのもいいだろう。えほん村では、日によって「絵本ライブ」と呼ばれる読み聞かせや、マリオネットショーなどのイベントも開催しているので、チェックしてから行ってみよう。
ehonmura 0才~100才の子どものこころへ

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。