未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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八ヶ岳の「こどものこころ」を訪ねて 世界中の“魔法”が集まる「えほん村」

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.277 |25 March 2025
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#3絵の具や墨の匂いが、食べたいくらい好きだった

1992年に発売された雅子さんの絵本『マジョマジョの春の色のつくり方』。魔女が小鳥たちのために春を生み出すカラフルな作品は、八ヶ岳の自然とつながる。

今度はえほん村の「館長」で、「マジョさん」の異名を持つ雅子さんのお話を聞いてみる。

「マジョさん」というのは、えほん村を訪れる子どもたちからいつの間にかついたニックネーム。雅子さんの作品『マジョマジョ』シリーズから来ているのかもしれないし、ご本人から溢れ出る“魔女っぽさ”からかもしれない。

幼少期のことを聞くと、「私は本当に、苦労がなにもないの」と話す。太三郎さんより7歳年下の雅子さんは、詩人の祖父のもとに文学者が集まる“文学者の家”で育った。とにかく本がたくさんある家で、文字が読めなくても本をめくって楽しんでいたという。

「『おじいちゃんの部屋には絶対に近づいてはいけません』と言われていたんだけど、そう言われるともっと近づきたくなるでしょう。おじいちゃんがトイレや散歩に出た隙に、匍匐前進で階段を登って忍び込んでいました。おじいちゃんの文机を覗き込むと、墨のいい匂いがして。あの匂いは今でもずっと好きですね」

本と同じくらい雅子さんを虜にしたのが、色彩だ。身体が弱く幼稚園に通えなかった雅子さんを、母は包装紙を敷き詰めた3畳ほどの部屋に12色のクレパスとともに放り込んだ。すると、一日中飽きることなく色を重ねていたそうだ。

また、祖母の知り合いの現代アート作家・白髪一雄さんのもとを訪れた時の衝撃が今でも忘れられない、と雅子さん。天井からロープを吊るし、足に絵の具をつけて紙の上をターザンのように走り回って絵を描いていたという。もちろん、雅子さんも一緒になって絵の具まみれになりながら紙の上を這いつくばった。

「絵の具の匂いとか、もう食べたいくらい好きだったんです。絵が好きというより、色を合わせて重ねてみることに夢中でしたね。なにもないところから、なにかを生み出せることに感動していたのかもしれない」

ハーブを育ててお茶を入れ、タロットを描く雅子さんは、本物の魔女のよう。タロット作りと絵本作りは、彼女のなかで似ていると話す。

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

八ヶ岳の「こどものこころ」を訪ねて

最寄りのICから【E20】中央自動車道「小淵沢IC」を下車
えほん村は、2歳以上550円で閉館まで絵本を楽しむことができる。途中でランチやお茶をしに外へ出て戻ってくることも可能なので、近くのカフェや飲食店などでごはんを食べて、また絵本の世界に戻っていくのもいいだろう。えほん村では、日によって「絵本ライブ」と呼ばれる読み聞かせや、マリオネットショーなどのイベントも開催しているので、チェックしてから行ってみよう。
ehonmura 0才~100才の子どものこころへ

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。