未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
ver276

山梨県北杜市

世界的な革靴作りコンクール「World Championships of Shoemaking 2024」で、過去最年少で優勝した靴職人がいる。その若さもさることながら、世界中が驚いたのは彼が靴作りを始めてから5年足らずだったこと。彼の話を聞きに、向かった先は八ヶ岳の森のなかだった。

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.ver276 |10 March 2025
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
山梨県北杜市

最寄りのICから【E20】中央自動車道「長坂IC」を下車

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#1雪景色の森を眺めながら

大通りから細い道に入ると、そこはすでに森。

車を降りると、うっすらと雪が積もった地面がザクリと音を立てた。「八ヶ岳は寒いですね」と震えると、意外にもこのあたりは雪が降りにくく今シーズンでは初めての雪だと、前を歩く菱沼乾さんが教えてくれた。

菱沼さんは、八ヶ岳の南麓にある山梨県北杜市に暮らす靴職人だ。2024年5月に行われた革靴作りの技術を競う世界的コンクール「World Championships of Shoemaking 2024」の優勝者でもある。大会の講評を読むと、菱沼さんが作り上げたローファーは「The shape of the last and the design lines are in harmony.(形とデザインの相性がすばらしい)」と絶賛され、審査員を魅了したことが伝わってくる。

当時30歳という過去最年少での優勝に加え、もうひとつ世間を驚かせたのは菱沼さんの経歴。もともとはまったく別の仕事をしながら趣味で革靴作りを始め、優勝時の革靴作り歴はなんと5年だった。

何年もの下積みや修行が必要になるイメージがある職人の世界で、菱沼さんが優勝できたのはなぜだったのか。そもそも、ほかの仕事をしていたところから、どうやったら世界的な靴職人になれるのだろうか。疑問が脳内をめぐるなか、アカマツの木々に囲まれた森を進むとおしゃれな茶色の工房が見えてきた。

木々の間に見える奥の建物が、菱沼さんたちが靴づくりをする工房だ。

「小屋を建てる様子を配信したら、一気にフォロワーが増えたんですよね」

“小屋を建てる”、“配信”——意外な言葉が続く。実は、森のなかに建つ2軒の小屋は菱沼さん自身が家族や友人とセルフビルドしたもの。さらに彼には、小屋作りや森の暮らしをテーマにしたものと靴について語る2つのYoutubeチャンネルを運営し、合わせて14万人以上のフォロワーを持つ配信者の顔もある。森のなかにある自ら設計したセルフビルドの小屋で、Youtube配信をしながら靴作りで世界一になった男……あまりの情報量の多さに驚く。

もともと、神戸の整形靴科で足の動きや靴作りを学んでいたヨシケンさん。菱沼さんとの出会いを経て、靴職人としてKish the Workの仲間となった。

工房のなかに通してもらうと奥の部屋からはトントントンと音が心地よい聞こえてきた。菱沼さんと一緒に働く「ヨシケン」こと吉田健太さんが工房で靴を作っている。寒さで縮んでいた肩からゆっくりと力が抜けていくのを感じつつ、温かな応接室で菱沼さんが世界一になるまでの人生を紐解いていった。

既成品に革を縫い付けてポケットにしたマイエプロン。革が馴染んでいて柔らかそうだ。

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

世界一のオーダーメイド革靴

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現在、完全オーダーメイドのビスポークは受注をストップさせている菱沼さんだが、再開されたら世界に一足だけのオリジナル靴を作ってもらいに八ヶ岳を訪れてみては。森のなかの落ち着く工房で靴を作ってもらう経験そのものが、思い出に残るに違いない。アウトドアに詳しい菱沼さんに周辺のおすすめを聞いて、自然を堪能できるスポットを回るのも楽しい。
Khish the Work

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。