優勝してからなにか変わったことはあるかと聞くと、また少し考えて「あんまりないかな」という菱沼さん。もちろん、優勝をきっかけにファンになった人から連絡をもらったり、近所の人から「新聞見たよ」と言われたりすることはあるが、仕事の仕方は大きくは変わっていない。
主に、革とデザインが選べる「MTO(made to order)」と、すでにあるデザインのなかから足のサイズに合わせて選べる「スタイルドビスポーク」、そして完全オーダーメイドでデザインから依頼できる「ビスポーク」の3種類を受け付ける。値段もどの程度細かくオーダーするかによって、20〜50万円と幅広い。ただ、ビスポークに関しては注文が立て込んでいるために現在はオーダーストップ中だ。
足の採寸や試し履きなどは基本的に、八ヶ岳の工房で行う。関東近郊はもちろん、関西や東北、海外ではシンガポールやオーストラリアからもお客さんが訪れるという。
「安い価格帯ではないので経営者や士業の方もいらっしゃいますけど、会社員の方も多いですし、Youtubeを見てくれている方々のなかには僕よりも若い人も結構います。幅広い方に革靴を届けたいので、嬉しいですね」
大会で出したようなカッチリとしたスタイルだけでなく、普段はデニムなどとも合わせやすいカジュアルなものを中心に作っているという菱沼さん。まだまだ革靴には「ここぞというタイミングで一張羅的に履くもの」というイメージがあるが、もっと日常で革靴を履いてみてほしいと話す。
「革靴ってちゃんと足に合っている良い素材のものを履けば、硬くも痛くもない。蒸れることもないし、すごい靴なんです。だから、仕事や式典で履かなきゃいけないから履くというより、履き心地やファッションとして楽しむために履いてもらいたいなと思っています」
菱沼さんは、足の機能を解説する『臨床足装具学』を読み込んだり、日本唯一の整形靴科を見学したり、“履き心地”についても追求を続けている。彼にとって、今回の「世界一」はあくまでも一部の側面に過ぎない。
「世界大会は美しさや技術を競う大会なのでいいんですけど、靴は本来、履き心地もすごく大切です。だからまだ、自分のことを本当の意味で“世界一”だと思っていないというか、見た目も履き心地も、もっと良くしたいと思ってます。そういう意味で、やることは今までと一緒ですね」
ストイックな発言のあとに、「少し自信にはなりましたけど」と笑う。今大会の優勝で、今までは「履き心地のために諦めざるを得なかった部分」をより求められる可能性がある。その要求に応えるためにもレベルをあげていかなければと、優勝者ならではのプレッシャーを感じている発言もあった。
未知の細道の旅に出かけよう!
世界一のオーダーメイド革靴
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