未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
ver276

八ヶ岳の森で生まれる「作りたい」衝動 “革靴が好きすぎる男”が世界一になるまで

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.ver276 |10 March 2025
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#5「好きは最強の才能」

「全部で300足以上は買いました。一番高かったのは一足13万円くらいかな……。革靴の履き心地の良さや履いた時の高揚感など、ほかの靴にはない魅力を感じていたんだと思います」

大学4年生の時には「もっと革靴に触りたい」という理由で靴修理のアルバイトを始め、ますます革靴に詳しくなっていった菱沼さん。アルバイトで稼いだお金で革靴を買い、修理しながら履いた靴を売って、そのお金をまた新たな靴につぎ込む、という生活だった。当時は靴関連の仕事に就くつもりはなかったと話すが、社会人1年目で通い始めた靴づくり教室で衝撃を受けた。大好きな革靴を、自分の手で作ることが楽しすぎたのだ。

「信じられないくらい楽しくて、教室に行く週末が待ちきれないという感じ。だんだんと仕事をしている時間すらもったいないというか、『この時間も靴が作れたらいいのに』と思うようになっていって……」

趣味に明け暮れる人の頭を一度はよぎる「仕事しないでずっとこれをやっていたいなあ……」という妄想。2020年、菱沼さんはその思いに従って仕事を辞め、靴修理のアルバイトに舞い戻った。靴の会社への転職や職人への弟子入りは考えず、自らの名前「Ken Hishinuma」を省略して名付けた「Khish the Work」を自身のブランドとして立ち上げたのだった。

横浜にある実家のマンションの自室を工房に作り替え、本格的に靴づくりを始めると会社員時代に比べて作ることができる靴の数もクオリティも上がっていく。年に一度、作り貯めた靴を披露する展示会を開くと、初回は6足、2年目には8足、展示したすべての靴が売れた。初めてオーダーメイド靴の予約販売をした時には、ネットで予約受付を始めると開始2分で10足の予約枠が埋まった。

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

世界一のオーダーメイド革靴

最寄りのICから【E20】中央自動車道「長坂IC」を下車
現在、完全オーダーメイドのビスポークは受注をストップさせている菱沼さんだが、再開されたら世界に一足だけのオリジナル靴を作ってもらいに八ヶ岳を訪れてみては。森のなかの落ち着く工房で靴を作ってもらう経験そのものが、思い出に残るに違いない。アウトドアに詳しい菱沼さんに周辺のおすすめを聞いて、自然を堪能できるスポットを回るのも楽しい。
Khish the Work

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。