最後に、これからやってみたいことを聞いてみる。変わらず、作ってみたいものは常に菱沼さんのなかにあるようだ。
「森のなかに映画館を作りたいなと思っていて。愛用車のクラシックカーを革で風情のある感じにカスタムもしたいですし。靴作り以外にも、やりたいことはいっぱいあるんです。今はまだ難しいですが、いつかはなにか作りたいなと思った時に、好きなものを作れる自分でありたい。そうしないと靴作りが仕事になって楽しくなくなってしまうのが嫌なんです。本当にいい状態で靴作りがしたいんですよ」
作りたいものを、作りたい時に、本気で作る。そう話す菱沼さんからは、レゴブロックの雪崩を掻き分けてほしいパーツを探していた幼少期の面影が見えてくるような気がした。ただ、その後すぐに顔が引き締まる。
「でも今はまず、次の大会に向けて頭がいっぱいですね」
取材時は、1月末。春に行われる2025年の世界大会のテーマはすでに発表され、菱沼さんも着々と準備を進めている。今回のテーマは「ダークブラウンの革を使用したダブルモンクストラップ」。先がふたつに分かれたベルトが足の甲を包むような形の革靴だ。
「この形もほとんど作ったことがないので、去年出していなかったら今年も『あーまた来年でいいか』となっていたかもしれませんね。2連覇するチャンスは今しかないので、やるしかないです」
過去に連覇を達成した靴職人は、まだいない。ものづくりへの欲求と、革靴への愛を兼ね備えた菱沼さんから生み出される革靴は、どう人々を驚かせるのか。その靴は、ここ八ヶ岳の森のなかで草木と一緒に春を待っている。