未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
134

神奈川県横浜市

80年代のはじめ、寂れた街の片隅でパントマイムを披露する男がいた。一人の男がひっそりと始めた路上のパフォーマンスは、いつしか数十万人を集める「野毛大道芸フェスティバル」に発展。そんなイクオさんの破天荒な人生と野毛の今とはーー。

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.134 |25 March 2019
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
神奈川県横浜市

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#1飲み屋×サーカス=野毛!?

夜の野毛

 金曜日の夜10時半。
 安い焼き鳥屋に、昭和レトロなバー、イタリア人が経営する本格ピザ屋……。桜木町駅の裏側の狭いエリアに500以上の飲食店がひしめく野毛は、夜の繁華街である。

 目抜き通りの「野毛小路」を歩いていると、ひときわ異彩を放った店が目につく。怪しいピエロが待ちかまえ、「おいで、おいで」となかに誘う。
 町並みにそぐわないヨーロッパ風の重厚なドアを開けると、そこには天井高6メートルの吹き抜けが現れた。高い天井から垂れ下がっているのは、長さが数メートルもある一枚の布である。
「もうすぐショーが始まりますよ」
 そう聞いて、2階の桟敷席に腰を落ち着けた。
 ここは、毎夜サーカス・パフォーマンスが見られるバーなのだ。日本全国でも大変レアなその店の名は「うっふ」。フランス語で、卵の意味である。

 「野毛」と「サーカス」。
 その二つの言葉を聞いたら、ピンと来る人もいるだろう。そう、ここは「野毛大道芸フェスティバル」の生みの親・三橋イクオさんがオーナーなのである。野毛大道芸フェスティバルは今年でもう33年目を迎え、毎年数十万人を動員する一大イベントだ。もちろん日本で一番古い大道芸フェスティバルである。
 そう考えると、もしかししたら、イクオさんは、日本における大道芸カルチャーの生みの親、と言っても過言ではないのかもしれない。

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未知の細道 No.134

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。