神奈川県横浜市
80年代のはじめ、寂れた街の片隅でパントマイムを披露する男がいた。一人の男がひっそりと始めた路上のパフォーマンスは、いつしか数十万人を集める「野毛大道芸フェスティバル」に発展。そんなイクオさんの破天荒な人生と野毛の今とはーー。
最寄りのICから【K1】首都高速神奈川1号横羽線「みなとみらいIC」を下車
最寄りのICから【K1】首都高速神奈川1号横羽線「みなとみらいIC」を下車
金曜日の夜10時半。
安い焼き鳥屋に、昭和レトロなバー、イタリア人が経営する本格ピザ屋……。桜木町駅の裏側の狭いエリアに500以上の飲食店がひしめく野毛は、夜の繁華街である。
目抜き通りの「野毛小路」を歩いていると、ひときわ異彩を放った店が目につく。怪しいピエロが待ちかまえ、「おいで、おいで」となかに誘う。
町並みにそぐわないヨーロッパ風の重厚なドアを開けると、そこには天井高6メートルの吹き抜けが現れた。高い天井から垂れ下がっているのは、長さが数メートルもある一枚の布である。
「もうすぐショーが始まりますよ」
そう聞いて、2階の桟敷席に腰を落ち着けた。
ここは、毎夜サーカス・パフォーマンスが見られるバーなのだ。日本全国でも大変レアなその店の名は「うっふ」。フランス語で、卵の意味である。
「野毛」と「サーカス」。
その二つの言葉を聞いたら、ピンと来る人もいるだろう。そう、ここは「野毛大道芸フェスティバル」の生みの親・三橋イクオさんがオーナーなのである。野毛大道芸フェスティバルは今年でもう33年目を迎え、毎年数十万人を動員する一大イベントだ。もちろん日本で一番古い大道芸フェスティバルである。
そう考えると、もしかししたら、イクオさんは、日本における大道芸カルチャーの生みの親、と言っても過言ではないのかもしれない。