氷屋さんとして、お客さんに楽しんでもらえること。岡本さんが氷の水族館の他に、もうひとつ行っているプログラムがある。それが「ちょいのぞき」と呼ばれる職場見学ツアーだ。
「最初は復興物語として、気仙沼の水産物の流れを見学しようっていうツアーだったんです。水産都市である気仙沼で流通を取り巻く、私たち氷屋、発泡スチロールなどの梱包材を用意する箱屋、そして水産加工屋さんを巡るというものだった」
3年前に始めた「ちょいのぞき」には、氷屋さんだけで700人の参加者が集まった。その後、他にもたくさんの職場見学や体験ツアーが集まり、今では「寿司にぎり体験」や「造船所探検」など40以上のコンテンツがある。
私も実際、氷屋さんの氷作りを見学させてもらった。普段の生活では絶対に目にすることがない、巨大な氷の塊。それが倉庫の中に積み上がっていく姿は圧巻だった。
「最後に、氷の彫刻をお見せします」
そう言われて見ると、失礼ながら、なかなか強面の男性たちが集まっていた。その中でも特別身体の大きい、宮崎勝也さんが氷の塊に何かを彫っていく。氷彫刻のパイオニア、清水三男氏に習ってからまだ1年だという宮崎さんが、私のために作ってくれたのは、きれいな氷の花の彫刻だった。
あまりの嬉しさに「持って帰ります!」と我が儘を言って、箱に詰めてもらう。溶けてしまうのが嫌だと、さらに駄々をこねる私に岡本さんが言った。
「儚い。だからいいんですよ。溶けなかったら氷じゃなくてガラスです。氷はその一瞬を楽しんでもらうものだから」
ウィルソン麻菜