未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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港町の氷屋さんが復活させた極寒世界

マイナス20℃!氷の水族館

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.103 |10 December 2017
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#7氷は溶けて当たり前

氷が倉庫内に積まれていく姿は圧巻だ。

 氷屋さんとして、お客さんに楽しんでもらえること。岡本さんが氷の水族館の他に、もうひとつ行っているプログラムがある。それが「ちょいのぞき」と呼ばれる職場見学ツアーだ。

「最初は復興物語として、気仙沼の水産物の流れを見学しようっていうツアーだったんです。水産都市である気仙沼で流通を取り巻く、私たち氷屋、発泡スチロールなどの梱包材を用意する箱屋、そして水産加工屋さんを巡るというものだった」

 3年前に始めた「ちょいのぞき」には、氷屋さんだけで700人の参加者が集まった。その後、他にもたくさんの職場見学や体験ツアーが集まり、今では「寿司にぎり体験」や「造船所探検」など40以上のコンテンツがある。

 私も実際、氷屋さんの氷作りを見学させてもらった。普段の生活では絶対に目にすることがない、巨大な氷の塊。それが倉庫の中に積み上がっていく姿は圧巻だった。

氷の塊の中に花を作っていく。

「最後に、氷の彫刻をお見せします」

 そう言われて見ると、失礼ながら、なかなか強面の男性たちが集まっていた。その中でも特別身体の大きい、宮崎勝也さんが氷の塊に何かを彫っていく。氷彫刻のパイオニア、清水三男氏に習ってからまだ1年だという宮崎さんが、私のために作ってくれたのは、きれいな氷の花の彫刻だった。

 あまりの嬉しさに「持って帰ります!」と我が儘を言って、箱に詰めてもらう。溶けてしまうのが嫌だと、さらに駄々をこねる私に岡本さんが言った。

「儚い。だからいいんですよ。溶けなかったら氷じゃなくてガラスです。氷はその一瞬を楽しんでもらうものだから」

まだ氷の彫刻を習い始めて1年だという宮崎さん
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未知の細道 No.103

ウィルソン麻菜

1990年東京都生まれ。学生時代に国際協力を専攻し、児童労働撤廃を掲げるNPO法人での啓発担当インターンとしてワークショップなどを担当。アメリカ留学、インド一人旅などを経験したのち就職。製造業の会社で、日本のものづくりにこだわりを持つ職人の姿勢に感動する。「買う人が、もっと作る人に思いを寄せる世の中にしたい」と考え、現在は野菜販売の仕事をしながら作り手にインタビューをして発信している。刺繍と着物、野菜、そしてインドが好き。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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