未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
103

港町の氷屋さんが復活させた極寒世界

マイナス20℃!氷の水族館

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.103 |10 December 2017
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#2線路のない道を行く

気仙沼線BRT。本当に普通のバス。

 「終点ですよ」と声をかけられたのは、気仙沼ではなく石巻だった。土地勘のない私は、石巻から気仙沼まで、電車で行けばいいだろうと踏んでいたのである。早速、乗換案内を調べると1度乗り換えればいいらしい。少し時間はかかるが、JR気仙沼線で本でも読みながら移動しよう。

 電車で石巻から前谷地まで移動し、気仙沼線への乗り換えホームを探すがなかなか見当たらない。ローカル線というのは、外から来た人間にはわかりづらいものだ。こういうときは、人に聞くに限る。

「すみません、JR気仙沼線に乗りたいんですけど」

眼鏡の優しそうな駅員さんに聞くと、乗り場を指差して教えてくれた。しかしホームではない。普通のバス停である。

「すみません、気仙沼線ってJRですよね」

 再度駅員さんに確認するも、あれが気仙沼線ですよと教えてくれる。でもバスじゃないか……。混乱したままバス停に近づくと、たしかに「気仙沼行き」と書かれたバスがやってきた。気仙沼に着けるなら、これでもいいか。

 調べてみると、気仙沼線は東日本大震災によって廃止され、このBRTと呼ばれるこのバスが走ることになったのだという。確かに窓から外を眺めていると、もともと線路だったような場所に沿って走っていたり、震災前は駅だったところにバス停があったりする。

 そうか、ここにはもともと街があって、線路があった。今あるのは、何もない広い土地と、真新しい建物ばかりだ。これから私が向かう気仙沼は、津波の被害が大きかった街。そのことをバスに揺られながら、改めて考えていた。車酔いが激しく、本は読めなかった。

 およそ2時間後、やっと気仙沼に到着。バスを降りると、その風の強さに驚く。これが港町の風。びゅうびゅうと吹かれながら、早速、海鮮を食べに……ではなく氷の水族館へ向かった。

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未知の細道 No.103

ウィルソン麻菜

1990年東京都生まれ。学生時代に国際協力を専攻し、児童労働撤廃を掲げるNPO法人での啓発担当インターンとしてワークショップなどを担当。アメリカ留学、インド一人旅などを経験したのち就職。製造業の会社で、日本のものづくりにこだわりを持つ職人の姿勢に感動する。「買う人が、もっと作る人に思いを寄せる世の中にしたい」と考え、現在は野菜販売の仕事をしながら作り手にインタビューをして発信している。刺繍と着物、野菜、そしてインドが好き。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。