未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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港町の氷屋さんが復活させた極寒世界

マイナス20℃!氷の水族館

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.103 |10 December 2017
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#5震災後3ヶ月で氷を作る

青いジャンパーに書かれた「氷や」の文字が凛々しい

 津波が気仙沼を襲った日、岡本さんはいつものように工場にいた。

「何日か前にも注意報が出てたから、まあそんなに大きいのは来ないだろって。でも警報の波の高さが、3メーター、6メーター、10メーターってなっていって……。それで海を見たら底が見えるくらいに波が引いちゃってるのが見えたから、急いでみんなを避難させた」

 幸い従業員はみんな助かったが、工場は流されて跡形もなくなっていた。

「1階部分はほぼ全壊状態。ストックしてあった氷は全部ダメになっちゃった。とにかく瓦礫を撤去して掃除して直して……。でもうちは助かった方でね。氷を作るメインの機械が2階にあったんです。だからある程度経った頃には、水と電気さえ復旧すれば氷は作れる状態まで戻すことができていた」

 当時、気仙沼で氷が作れたのは岡本製氷冷凍工場だけ。震災の3ヶ月後には市場を復活させると発表していた気仙沼にとって、岡本さんの作る氷が命綱だった。

「氷がなければ出荷できないから、水揚げもできない。都市部に氷を卸していたなら待ってくれと言えたかもしれないけど、お客さんの9割は地元の人たちだから。やらなきゃっていうプレッシャーがありましたね」

 そして震災から6年経った今年、岡本さんは氷の水族館を復活させた。それは震災前の水族館を知る人々が驚くようなリニューアルだった。

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未知の細道 No.103

ウィルソン麻菜

1990年東京都生まれ。学生時代に国際協力を専攻し、児童労働撤廃を掲げるNPO法人での啓発担当インターンとしてワークショップなどを担当。アメリカ留学、インド一人旅などを経験したのち就職。製造業の会社で、日本のものづくりにこだわりを持つ職人の姿勢に感動する。「買う人が、もっと作る人に思いを寄せる世の中にしたい」と考え、現在は野菜販売の仕事をしながら作り手にインタビューをして発信している。刺繍と着物、野菜、そしてインドが好き。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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