未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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港町の氷屋さんが復活させた極寒世界

マイナス20℃!氷の水族館

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.103 |10 December 2017
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#6氷の水族館のつくりかた

たまたま2階に設置されていたことが奇跡だという機械。

「気仙沼でここにしかないものっていうのが、作りたかった」

 そう言って岡本さんが教えてくれたのは、水族館で使用している氷の作り方。全部で3、4ヶ月かかったという氷作りは、普段の水揚げに使われる氷とは全く違うものだ。

「ポンプで水をかき回しながら、4日くらいかけてゆっくり凍らせていくんです。そうすると透明度の高い氷になる。外側から凍っていくので、タイミングを見計らって先に凍らせておいた魚を手で置いていった。どうやったら泳いでいるように見えるか、隣に置く氷とのバランスはどうか。そんなことを考えながら一つずつ丁寧に」

 泳いでいるうちに凍ってしまったんじゃないかと思った氷の水族館の魚たちは、岡本さんの手によってその動きを作り出されていたのだった。完成したと思えば割れてしまったこともあったという。気が遠くなるような作業。

「今、展示している魚は、気仙沼で水揚げされるもののほんの一部。もっといろんな魚があるのを見てほしいから、来年の冬には展示内容を入れ替える予定です」

 つまり夏頃から、岡本さんの氷作りは始まる。どうしてそこまで、氷の水族館づくりに力を入れられるのか。

「震災後、観光客も若者も減っています。だから水族館もそうですけど、いろんな新しいことをやっていかなきゃいけないと思って。私は氷屋だから、氷を通して地元の発展に貢献できればいいなと思ってやっています」

 そのあと岡本さんは笑って、付け加えた。

「でも実際、お客さんに楽しんでもらえるものを考えているときが、すごく楽しいからっていうのもあります」

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未知の細道 No.103

ウィルソン麻菜

1990年東京都生まれ。学生時代に国際協力を専攻し、児童労働撤廃を掲げるNPO法人での啓発担当インターンとしてワークショップなどを担当。アメリカ留学、インド一人旅などを経験したのち就職。製造業の会社で、日本のものづくりにこだわりを持つ職人の姿勢に感動する。「買う人が、もっと作る人に思いを寄せる世の中にしたい」と考え、現在は野菜販売の仕事をしながら作り手にインタビューをして発信している。刺繍と着物、野菜、そしてインドが好き。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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