未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
96

小網代の森は、ノアの箱舟!

三浦半島の「奇跡の森」を歩こう

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.96 |10 August 2017
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#4おかえりなさい、ホタル

 そう話している間にも目の前の風景がゆるやかに変化した。川の流れは、目に見えて太くなってくる。
 ハンノキの林を通り過ぎ、さらにジャヤナギを横目に歩いていく。さらに十分ほど進むと、背の高いオギや葦が生える太陽が眩しい湿原に。当たり前だが、植生が変わると、そこに住む生き物も変わる。
「大事なのは、光と川の流れをコントロールすることです」と西池さんは言う。

 そうすることで、本来はそこにいたであろう生き物を「おかえりなさい」と迎えてあげる環境を作るのだそうだ。
「その象徴がホタルですね。川に光がはいることで、ホタルの餌となるカワニナが増えて、谷全体にゲンジボタルが戻ってきました。6月になると3、4日は光り輝きます」
 それは、さぞかし壮観だろう。帰ってきたホタルの群れを一目見ようと、今年はたくさんのお客さんがやってきた。
 途中で、オオブタクサという外来種が生えている場所があった。
「(NPOの)スタッフがパトロールしているので、これも、一、二週間後には抜かれていると思います」
 こうして、たくさんの人の手によって、今日も森が守られている。

 吹き抜ける風が少し涼しくなり、直感的に「海は遠くない」と感じさせる。
 エノキテラスという休憩スペースにたどりつくと、数組の家族や友だちグループが木陰でお弁当を食べていて、とても賑やかだ。
「カニさんがたくさんいたよー」と干潟の方面からきた子どもたちが教えてくれる。
 もう干潟はすぐそこのようだ。

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未知の細道 No.96

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。