未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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小網代の森は、ノアの箱舟!

三浦半島の「奇跡の森」を歩こう

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.96 |10 August 2017
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#9カニたちの大冒険

小網代の森を訪れたら、アカテガニの団地を見つけてみよう。

 最後に、西池さんは通称「アカテガニの団地」と呼ばれる場所に案内してくれた。森の中の斜面には、無数の穴があいている。
「いましたよ、ここです」という小さな声で手招きをする。
 すると……。
 いたいた! 赤い小さなカニたち。
 急に近づくと穴のなかに隠れてしまうので、そっと遠くから眺めた。
 今頃、団地の中は、大切な旅の準備でてんやわんやなのもしれない。これから、えっちら、おっちらと旅をして、たくさんの赤ちゃんたちを海に放つ。
 頑張っていってきてねー、と声をかける。
 そこから海までの距離を考えた時、それは一世一代の大冒険に違いない。もし海までの間にたった一本でも道路があって、そこに車が走っていたら、きっと多くのカニは海までたどりつけない。小網代の森だからこそ、アカテガニは安心して暮らすことができるのだ。

 ここで生きる生き物たちは幸せだろうなあ。
 そんなことを考えながら、歩いているともうひとつの森の入り口「宮ノ前峠」に着いた。
 ヨットハーバーの向こう側には、リゾート施設「シーボニア」の特徴的な建物が見えてきた。
 ここはもう人間たちの世界──。
 ゆっくり歩いても二時間ほど。
 ひとつの流域をめぐるドラマが、幕を閉じようとしていた。

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 小網代の森
 所在地:三浦市三崎町小網代、初声町三戸の一部
 最寄駅:京急電鉄「三崎口駅」徒歩10分(引橋入口まで) 
 ※駐車場はありませんので、公共交通機関でお越しください。

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未知の細道 No.96

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。