後日、ぼくは亮さんの事務所を訪れた。中東のクラシックな水タバコとは対照的な、新型の水タバコを知るためだ。
たとえば、ぶくぶくぶく……と音が鳴るのは、そのガラス瓶の中に水がはいっているからだが、水のかわりに、ジュースやワインをいれることもある。今回は特別にカルピスをいれてもらった。
タバコ葉はカルピスの味を邪魔しない甘めのミント。しかも、ホースはアイスホース。中に保冷剤がはいっていて煙を冷やすことができるのだ。
吸ってみると、ミントの清涼感が引き立つようでもあり、カルピスの甘さがひんやりと香って気持ちいい。たとえるならば、アイスクリームを食べたあとの余韻のような口あたり。吸い心地が驚くほど軽いのだ。
このカラードロータスと呼ばれる器具もおもしろい。
このカラードロータスと呼ばれる器具もおもしろい。アルミホイルでふたをするかわりにこれを使うことで、炭の大きさや置き場所に左右されなくなる。つまり、誰でも安定してちょうどいい煙が出せるようになったのだ。
「世界中で水タバコ屋が増えているのは、ロータスがあってこそだと思うんですよね。この器具が生まれたのは、2010年前後だったと思うのですが、熱の対流を研究している専門家といっしょに開発されたと聞いています」
ただの鉄板ではないのである。吸ったときにどういう熱の対流が起きて、どうしたら少量の炭で熱をキープして、いい煙が出せるのか。まさに水タバコのために生まれた器具なのだ。
そして、やはり気になるのはフレーバー。たとえば、このピーナッツバター。
「これ、珍しいんですけど、本物のピーナッツバターオイルを入れてるんです。これは衝撃でしたね。ついに本物を使いはじめたな、と思って。これまでは駄菓子のように香料を使って擬似的に味をつくっていたはずなんです。それに、このパイナップルなんかは本物の果肉を使ってるんですよ」
においを嗅いでみると、本物の果実ならではのみずみずしい香りがする。これをタバコ葉と同じように詰めて燃やすのだ。亮さんが味見したところによると、これまでのパイナップル味よりパイナップルの味がでるという。
フレーバーといえば、ぼくにはひとつ聞いてみたいことがあった。
水タバコには驚くほどたくさんのフレーバーがあるが、それは既製品ばかりではない。それぞれの専門店がミックスによって新しい味を発明していることもある。それは、どうやっているのだろう。
「プライベートでカフェに行ったとき、気になるドリンクを頼んでみることがあります。たとえば、バナナラテ。まずにおいを嗅ぎます。これは水タバコでいえば、あの会社のバナナだなとわかる。じゃあ、ラテをどうやって再現するか。コーヒーとバニラでいけると思って飲んでみたら、シナモンが効いていることに気づく。これなら『シナモンチャイ』でいける。ただ、シナモンチャイとバナナを混ぜるだけだと『シナモンチャイバナナ』でしかない。バナナラテにするためには、バニラをつなぎとして混ぜたらバナナラテとして出せるな、と考えました」
あとは、事務所で実験を重ねてお店で出せるレベルに仕上げていく。なるほど、こうして現代の水タバコは進化しているのである。
ライター 志賀章人(しがあきひと)