ぶくぶくぶく……と、ぼくたちの会話は煙々、続く。
亮さんと話しはじめて1時間半。ついに水タバコの煙も尽きた。まもなく開店時間というわけで、ぼくは、もう1本、吸ってみることにした。
はじめてのお客さんは、左の2列がおすすめ。甘いフルーツがよければメロンやマンゴー、さっぱりフルーツがよければレモンやパイナップル。ちょっと変わったのがよければ、チョコミントの味も出る。
しかし、ぼくは「ミックス」を頼んでみたくなった。亮さんがこう話していたからだ。
「うちのリョウタくんはミックスがすごくて。『ナシとライムとミントいれて』って言ったらもう絶妙なバランスで出してくれるんですよ。指先の感覚や嗅覚の才能があるんです」
ぼくと亮さんが話をしているかたわらで、リョウタさんは開店準備をしていたのだが、ぼくはリョウタさんの水タバコをどうしても吸ってみたくなったのだ。
相談すると、「パイナップルとピンクグレーププルーツに清涼感がガツンとくるミントを加えたすっきり系のミックスはいかがですか」とのこと。もちろん異論はない。想像するだけで美味そうである。
リョウタさんはどのようにして水タバコをつくるのだろうか。
「お互いの味を生かしたくて。常ににおいを嗅ぎながら、ちょっと入れて、におい嗅いで、ちょっと足して、におい嗅いで、ちょっと足して……」
常連さんにもなると「ピーチ5、バニラ1の残りを青りんごで」というような注文が飛び交う。そのままの割合でタバコ葉を混ぜればいいという単純な話ではない。
「アップルとミントを半々で」と言われても、それぞれのタバコ葉を半々でいれるとミントが勝ってしまう。ミントを4分の1ぐらいに抑えないとアップルが消されてしまうのだ。もちろん、同じミントでもメーカーによっても違う。無数にあるフレーバーの相性をすべて計算してミックスしなければならないのだ。
何度もにおいを嗅いで確かめたあと、仕上げに細い棒を使って混ぜる。指よりも細いためタバコ葉がほぐれやすいという。
そして、「吸い出し」という作業にうつる。炭を置いてもすぐに火はまわらないため、口で吸って熱をまわして、適度な温度に持っていく。これもまた職人技である。
できあがったその味は、まさしくぼく好み。2本目の水タバコをさらに2時間吸っても飽きることないミックスだった。
ライター 志賀章人(しがあきひと)