未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
84

人生には、
人生に必要のないものが、
必要だ。

煙とシーシャを囲んで話をしよう。

文= 志賀章人
写真= 志賀章人
未知の細道 No.84 |10 February 2017
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#6煙路はるばるやってきた

そして、ぼくは下北沢を訪れた。

日本におけるシーシャカフェ発祥の店「シーシャ下北沢」をこの目で見てみたかったからだ。

下北沢駅を降りると、高田馬場に似た学生街らしい賑わいが感じられる。こういう都市の隙間に水タバコ屋はあるのである。個人店の多い商店街を歩いていくと、あの懐かしき縁側があらわれた。

これだ。これがまさにぼくがイランで目にした光景である。店頭にある縁側から醸しだされる、けだるいオーラ。近寄りがたく見えるかもしれないが、実はリラックスしているだけ。この雰囲気がまた中東にそっくりなのだ。

さっそく店内にはいって水タバコを1本、頼んでみる。

出てきたのは、これまたイランを思い出すようなクラシックな水タバコ。

そして、タバコ葉を詰めた陶器にアルミホイルでふたをして、その上に炭を置く。これもまた中東のクラシックスタイルそのもの。炭を置くのも変えるのも実に巧みで上手くて美味い。水タバコの原点を味わいたいなら「シーシャ下北沢」はたまらないはずだ。

では、なぜ日本でのはじまりの場所が下北沢だったのか。聞いてみると、下北沢は渋谷に比べて家賃が安かったことがひとつ、そして、やはり若者の町であることも大きかったという。あらためて店内を見まわしてみると思わず感慨深くなる。ばんびえんはもちろん、日本の多くのシーシャカフェがこのお店がつくりあげた世界観をベースにしていることがわかる気がするのだ。

「毎日が“ちょっと”パーティー。そう話すこともありますけど、うちは店が狭いので座席がこう壁沿いにぐるっと取り囲んでいますよね。だから知らない人どうしでも会話が生まれやすいんです」

その日もまた、人三倍、人見知りのぼくは声をかけあぐねていたのだが、店長さんがさりげなく、となりのお客さんとの距離を縮めてくれる。

「ねぇ、いつものマジックしてあげて」

まだ練習中ダヨ、と手にしていたトランプでマジックを披露してくれたのはインド人。ちなみにそのとなりはドイツ人で、そのまたとなりにいたのはインド人。シーシャ下北沢は外国のお客さんも多いのだ。

話をしてみると、彼はなんとぼくが好きなアニメを手がけたアニメーターだった。人四倍、人見知りのぼくはアニメライターのほうが向いている気がするのだが、アニメにおけるレンズフレアのエフェクトや、CGキャラクターに骨をいれるリギングなど、日本人の友人とも話したことがない会話にのめりこんでしまった。

「うちの社長も昔バックパッカーをしていたんですが、中東で水タバコにハマって、残りの資金をぜんぶ水タバコの買い付けに費やして帰ってきた。そうしてこの店がはじまったと聞いています」

それから14年。下北沢から上がった狼煙は東京各地へ、そして全国各地へ広がっている。

「うちも、あちこちに進出してもよかったんだけどね」

そう笑う店長さんだが、シーシャ下北沢はその2号店も下北沢に据えた。2号店は1号店とは対照的にソファ席もある大きなお店だが、それにライバル会社を含めると、今では下北沢だけで4つのシーシャカフェがある。まさに日本のシーシャカフェのメッカなのだった。

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未知の細道 No.84

ライター 志賀章人(しがあきひと)

「え?」が「お!」になるのがコピーです。
コピーライターとして、核を書くことで、あなたの言葉にならない想いを言葉にします。
京都→香川→大阪→横浜で育ち、大学時代にバックパッカーとしてユーラシア大陸を横断。その後、「TRAVERINGプロジェクト」を立ち上げ、「手ぶらでインド」「スゴイ!が日常!小笠原」など旅を通して見つけたモノゴトを発信中。次なる旅は、夫婦で世界一周!シェアハウス暦8年の経験から、子育てをシェアする未来の暮らしも模索中。
伝えたいことを、伝えたいひとに、伝えられるようになる。そのために、仕事のコピーと、私事の旅を、今日も言葉にし続ける。
「新聞広告クリエーティブコンテスト」「宣伝会議賞」「販促会議賞」など受賞・ファイナリスト多数。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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