未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
84

人生には、
人生に必要のないものが、
必要だ。

煙とシーシャを囲んで話をしよう。

文= 志賀章人
写真= 志賀章人
未知の細道 No.84 |10 February 2017
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#5煙もゆかりもありません

16時の開店と同時に3人のお客さんがやってきた。

もう2年半も通っているという常連さんを含む3人組だ。と、思っていたのだが、実は2人組と1人だった。ぼくが亮さんに別れを告げているあいだに、すでに水タバコを吸いはじめていた3人は、はじめから3人組だったと勘違いするほど仲良く並んで座っていたのである。

そして、リョウタさんがぼくの元にやってくる。

「いまのところ煙の強さどうですか?」

もう少し強くできますか、とお願いすると、手際よく炭を足していく。

そして、3人のお客さんにも煙の調子を聞いていく。

この流れで自然と会話が生まれる。

「どんなの吸ってるんですか?」

「ぼくはパイナップルのミックスです。吸います?」

「ぼくのはシナモンロールですが、こっちもぜひ」

「うわ、シナモンロールのパン生地って言うんですかね、あの感じがすごいですね。シナモンとか砂糖とかはなんとなくわかるんですけど、パン感ってどうやって出すんだろう」

「ピーナツバターもびっくりしましたけどね」

「あれもやばいですよね。あれ吸ってると食パン食べたくなる」

「バナナキャラメルのお客様いかがですか?」

「いい感じです」

「バナナキャラメルなんてあるんすか?」

「キャラメルが新しく入ったらしいんです」

「お、甘いもの好きですか?」

「シーシャに関してだけですけどね。実際は辛党なんです」

「あ、これ、もうちょい焼きます?」

「そうですね、もうちょっとだけ」

リョウタさんと、3人のお客さん、そしてぼく。5人の煙と会話がいりまじる。水タバコの話題をきっかけにお互いの自己紹介がはじまるのだ。

お客さんのひとりは、もとはタバコに嫌悪感を持っていたにもかかわらず、記者として仕方なく水タバコの取材に来たところハマってしまったという。ほかのふたりは友人に連れられてハマってしまったパターン。そう、水タバコはあまりにイメージと違うのでそのギャップにハマってしまうのだ。

そして、ぼくが新潟を旅した話をすると、常連さんの出身地も新潟であるとわかったり、よくよく聞けば同い年だとわかったり。人二倍、人見知りのぼくであるが、誰とでも話してみれば共通点はいくらでもある。それに、水タバコを囲んでいると、囲炉裏を囲んでいるような親密さがある。距離が近くなるのも当然なのかもしれない。

そうこうしているうちに、続々とお客さんがやってくる。あっという間に部屋が甘い香りで満たされたと思うと、開店1時間にして満席となっていた。

シーシャ談義をする人、カップルで来てカフェのようにおしゃべりする人、ひとりでもくもくと本を読む人、誰かを待っているらしき人、なぜか目を閉じてひたすらお菓子を食べている人……

数えてみると16人。それぞれが思い思いにゆるい時間を過ごしていた。それは、ぼくがイランで感じたものと変わらない、縁側のようなひとときだった。

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未知の細道 No.84

ライター 志賀章人(しがあきひと)

「え?」が「お!」になるのがコピーです。
コピーライターとして、核を書くことで、あなたの言葉にならない想いを言葉にします。
京都→香川→大阪→横浜で育ち、大学時代にバックパッカーとしてユーラシア大陸を横断。その後、「TRAVERINGプロジェクト」を立ち上げ、「手ぶらでインド」「スゴイ!が日常!小笠原」など旅を通して見つけたモノゴトを発信中。次なる旅は、夫婦で世界一周!シェアハウス暦8年の経験から、子育てをシェアする未来の暮らしも模索中。
伝えたいことを、伝えたいひとに、伝えられるようになる。そのために、仕事のコピーと、私事の旅を、今日も言葉にし続ける。
「新聞広告クリエーティブコンテスト」「宣伝会議賞」「販促会議賞」など受賞・ファイナリスト多数。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。