16時の開店と同時に3人のお客さんがやってきた。
もう2年半も通っているという常連さんを含む3人組だ。と、思っていたのだが、実は2人組と1人だった。ぼくが亮さんに別れを告げているあいだに、すでに水タバコを吸いはじめていた3人は、はじめから3人組だったと勘違いするほど仲良く並んで座っていたのである。
そして、リョウタさんがぼくの元にやってくる。
「いまのところ煙の強さどうですか?」
もう少し強くできますか、とお願いすると、手際よく炭を足していく。
そして、3人のお客さんにも煙の調子を聞いていく。
この流れで自然と会話が生まれる。
「どんなの吸ってるんですか?」
「ぼくはパイナップルのミックスです。吸います?」
「ぼくのはシナモンロールですが、こっちもぜひ」
「うわ、シナモンロールのパン生地って言うんですかね、あの感じがすごいですね。シナモンとか砂糖とかはなんとなくわかるんですけど、パン感ってどうやって出すんだろう」
「ピーナツバターもびっくりしましたけどね」
「あれもやばいですよね。あれ吸ってると食パン食べたくなる」
「バナナキャラメルのお客様いかがですか?」
「いい感じです」
「バナナキャラメルなんてあるんすか?」
「キャラメルが新しく入ったらしいんです」
「お、甘いもの好きですか?」
「シーシャに関してだけですけどね。実際は辛党なんです」
「あ、これ、もうちょい焼きます?」
「そうですね、もうちょっとだけ」
リョウタさんと、3人のお客さん、そしてぼく。5人の煙と会話がいりまじる。水タバコの話題をきっかけにお互いの自己紹介がはじまるのだ。
お客さんのひとりは、もとはタバコに嫌悪感を持っていたにもかかわらず、記者として仕方なく水タバコの取材に来たところハマってしまったという。ほかのふたりは友人に連れられてハマってしまったパターン。そう、水タバコはあまりにイメージと違うのでそのギャップにハマってしまうのだ。
そして、ぼくが新潟を旅した話をすると、常連さんの出身地も新潟であるとわかったり、よくよく聞けば同い年だとわかったり。人二倍、人見知りのぼくであるが、誰とでも話してみれば共通点はいくらでもある。それに、水タバコを囲んでいると、囲炉裏を囲んでいるような親密さがある。距離が近くなるのも当然なのかもしれない。
そうこうしているうちに、続々とお客さんがやってくる。あっという間に部屋が甘い香りで満たされたと思うと、開店1時間にして満席となっていた。
シーシャ談義をする人、カップルで来てカフェのようにおしゃべりする人、ひとりでもくもくと本を読む人、誰かを待っているらしき人、なぜか目を閉じてひたすらお菓子を食べている人……
数えてみると16人。それぞれが思い思いにゆるい時間を過ごしていた。それは、ぼくがイランで感じたものと変わらない、縁側のようなひとときだった。
ライター 志賀章人(しがあきひと)