未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
84

人生には、
人生に必要のないものが、
必要だ。

煙とシーシャを囲んで話をしよう。

文= 志賀章人
写真= 志賀章人
未知の細道 No.84 |10 February 2017
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#3袖振り合うも多生の煙

 こうして水タバコを吸いながらお話を聞かせてもらっていると、会話の間(ま)がゆっくりになっていいですね。相手がなにか言っても、

ぶくぶくぶく……

 ――それ、いいねぇ。なんて、一呼吸おいてから話す感じがたまりません。

 2、3人で話をしにくるお客さんは多いですね。水タバコは1本で1時間半ぐらい持つので、飲み代より安くて濃厚に話せるし、少人数での話しあいに向いてるんですよ。

ぶくぶくぶく……

 それにしても中東よりアメリカのほうが進化しているというのは意外ですね。

 中東では昔ながらのダブルアップルやレモンミントをずーっと吸ってるんですよね。でも、水タバコが世界的ブームになってからは、アメリカがティラミスやブラウニーといった新しい味や、新しい器具を開発していったんです。

ぶくぶくぶく……

 日本ではどうなのでしょう。伝わってきたのは最近なんですか?

 12年ぐらい前に水タバコ専門店が下北沢にできたのが最初です。それまでも中東料理屋さんとかであったんですが、専門店は別物と言える水タバコになっているんです。

ぶくぶくぶく……

 どういったところに差が出てくるんですか?

 フレーバーや器具の違いはもちろんですが、それ以前に、専門店は炭を変えるのがていねいで、お客さんにあわせてじっくり煙をつくるんです。料理屋だと料理の合間に炭を置かざるを得ないので、そんなに面倒を見てられないんですよ。たとえば、いま、煙が少なくなってきてるじゃないですか。これは炭が小さくなって火が弱まってきてるんですね。ここに炭を足してあげると、火力が強くなる。ちょっとやってみますね。

ぶくぶくぶく……

 煙が増えたのわかりますか? これでまた吸えるようになるんです。専門店はこまめに炭をチェックして、いい煙がでてるかを常に見ています。

ぶくぶくぶく……

 たしかに、炭を変えると味も煙もよみがえりますね。それにしても、日本の専門店はどうして隠れ家のような場所にあるのでしょう。

 アメリカなんかは店が大きいですよね。そういうシーシャラウンジと違って、日本は「シーシャカフェ」なんです。東京から水タバコ屋がはじまったわけですが、土地も資本もないので雑居ビルを安く借りるしかない。でも、日本には水タバコが吸える店が少ないので、お客さんが検索して探して来てくれる。だから看板がなくても成り立っちゃうんです。

ぶくぶくぶく……

「ばんびえん」って、ラオスの村の名前にありますよね?

 はい、ボクも旅をしたことがあるんですが、バンビエンは「会話が人生最高の暇つぶし」みたいな場所なんですよ。あまりにやることがないので、基本的に「どっか行く?」って声をかけると、みんな「YES!」って言う。東京にはそういう場所が少ないなぁと思っていて。

ぶくぶくぶく……

 ぼくは、シェアハウスに住んできたので、リビングに行けば誰かに会える。約束をしなくても誰かと出かけられるというのが日常でしたが、東京ではめずらしい環境ですよね。

 ボクもゲストハウスが好きだったんです。暇人どうしが集まって出会いが生まれたり、いろんな世界を教えてもらったり、それがいちばんの楽しみで。ばんびえんには、ボードゲームやマンガ、そんな「人生に必要のないゆるいもの」がたくさんあるんですが、水タバコをきっかけに繋がってもらえたらうれしいですね。

ぶくぶくぶく……

 水タバコがあると対話が生まれますもんね。

 同じような思いのある人が出会って話しているうちに、人生がちょっとでも楽しくなればいいなぁって思いますね。ボクが水タバコに出会って、お店をやっているのもそういった出会いからですが、実はうちの従業員もみんなうちの常連さんだった人なんですよ。

ぶくぶくぶく……

 むしろ、人生に必要なもの、なんじゃないですか(笑)?

 ボクにとって水タバコはもう必要なものです(笑)。

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未知の細道 No.84

ライター 志賀章人(しがあきひと)

「え?」が「お!」になるのがコピーです。
コピーライターとして、核を書くことで、あなたの言葉にならない想いを言葉にします。
京都→香川→大阪→横浜で育ち、大学時代にバックパッカーとしてユーラシア大陸を横断。その後、「TRAVERINGプロジェクト」を立ち上げ、「手ぶらでインド」「スゴイ!が日常!小笠原」など旅を通して見つけたモノゴトを発信中。次なる旅は、夫婦で世界一周!シェアハウス暦8年の経験から、子育てをシェアする未来の暮らしも模索中。
伝えたいことを、伝えたいひとに、伝えられるようになる。そのために、仕事のコピーと、私事の旅を、今日も言葉にし続ける。
「新聞広告クリエーティブコンテスト」「宣伝会議賞」「販促会議賞」など受賞・ファイナリスト多数。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。