それにしても、決して楽な仕事ではないと次郎さんは言う。
路上の夏は夜まで暑く、冬は凍えるほど寒い。定休日はなく、雨や風の日だけが休みだ。仮に年間300日開店しているとすると、45年で13,500日。
「この仕事は本当に体力勝負だよ。でも、ほとんど風邪ひいたことないな。きっと精神力が違うんだな!」
「急に雨が降ってきたらどうするんですか?」
「ずぶぬれだよ! 見たでしょ、準備するのに一時間かかるのに、そんなにすぐにしまえないよ」
そうですよねえと私は頷いた。Twitterをやっているという次郎さんのアカウントを覗いてみると、天気についての投稿も多かった。
“アラジン、準備出来ましたが、また降りだしましたので18時で撤収しました! 明日のお越しをお待ちしてます”という投稿もあった。
しかし、お客さんがゼロの日は一度もない。とにかく、開けていれば誰かは必ずやってくる。
「この仕事で楽しいことは、普通に生活していたら出会えない人に会えること。すべてのジャンルの人が来るよ」
父親の代から通い続ける近所の人。サラリーマン、公務員、主婦、新聞記者、バイク乗り、イラストレーター、隣の文化ホールで演奏するオーケストラの楽団員、日本一周旅行中の女性もやってきた。一人でぶらりとやってくる近所の高校生もいる。
「小学校四年生の常連さんもいるよ。お父さんと一緒にくるの。あの子はすごいね。いつもブラックで飲むんだから、本物のコーヒー好きだよね」
川内 有緒