6時半。ついに一人目のお客さんが現れた。
「去年、たまたまテレビ番組でアラジンのことを知って、ずっと来たいと思ってました」
そう嬉しそうに言うのは、埼玉の行田から車で40分かけて来たという三十代の男性。「やっとこられて嬉しいです」
白いカップにコーヒーが注がれると、「ああ、おいしい」と味わった。飲み終わると、すぐに2杯目を頼んだ。
その後、大手新聞社で働いている若い女性もやってきた。私たち三人は相席になったので、自然に「こんにちは、どこから来たんですか」と話が始まった。彼女は、西日本から栃木に転勤になったばかりで、ここに来るのは同じく初めて。
こうして常連でもない三人が、夜のコーヒーを囲んでいることが不思議だった。ゆらゆらとした炎が私たちの顔を照らす。こんなに優しい光の中だったら、どんな打ち明け話もできそうな気がした。私も思わず2杯目のコーヒーを頼んだ。
その時、「マスター、コーヒー二つね!」という元気な声が天幕の外から聞こえてきた。
「常連さんだよ。いつも車の中からオーダーして、車を駐車してから来るんだ」
と、次郎さんはコーヒーを淹れる準備を始めた。
2分ほどすると、五十代くらいの男女が楽しそうな笑顔でやってきた。
「どこに座りますか?」
次郎さんが声をかけると、「あっち!」と石油ストーブから一番遠い路上のテーブル席を指差した。
「寒くないですか? 席をかわりましょうか」
そう声をかけると、「全然、寒くないねえ!こっちの方が好きなんだ」と男性の方が元気よく言う。女性の方は、「寒いなあ、寒いなあと思いながら、温かいコーヒーを飲むのがいいのよ!」とこれまた嬉しそうである。ふたりは趣味の仲間だそうだ。
外食をした後に、ここに寄ってコーヒーを飲むのが習慣になっている。
「ここのコーヒーを飲んだたら、他ではもう飲めないよ! 本当においしいもん。東京にもたまに行くけど、こんなにおいしいコーヒーはないよね」(男性)
「コーヒーもそうだけど、マスターの人間性に惹かれてきてるのよ。そうねえ、週に一回は必ず来るわね。だって、こんなすてきなところって他にないじゃない? こうやって落ち葉が降る中で、夜のコーヒーが飲めるなんてねえ」
女性は幸せそうに空を見上げた。
次に現れたのは、コーヒー好きで、カフェ巡りが趣味という若い男性である。
「ここのコーヒーが本当に好きです! ここのおいしさは、言葉ではうまくいいあらわせない。それに、店主の人柄かなあ。僕みたいな若造でも、気兼ねなく話してくれるのが嬉しいんです」
川内 有緒