渡良瀬川にかかる橋を渡る。
雲ひとつないすばらしい秋晴れで、11月だというのに汗ばむほどの陽気だ。
途中で、回り道をして、国宝に指定されたという鑁阿寺に寄ってみた。室町幕府を起こした足利氏の居館跡だそうで、敷地内では巨大な銀杏の木が黄金色に輝いていた。銀杏はなんと樹齢600年で、天然記念物に指定されているらしい。紅葉があまりにも見事で、ここでゆっくりしたいという誘惑に駆られたが、一刻も早くアラジンのコーヒーを飲んでみたいという欲望が勝ったので、先を急ぐ。
45年間変わらないコーヒーって、どんな味なのだろう?
再び地図を広げる。ええと、国道に出た後は、ひたすらまっすぐ進むだけ━━。
国道は想像していた以上に、活気がなかった。歩いている人も、開いている商店もまばらだ。こんなに何もない場所で、本当にコーヒー屋さんが成り立つのだろうか。
しばらく国道を進んだが、特にそれらしいものは見当たらなかった。
もしかしたら、まだ開店していないかもしれない。アラジンの開店時間は、夕方から夜十二時まで。時計を見ると、三時を指している。もしまだ開店していなかったら、通りすぎてしまう。
また不安に感じて、信号を待っていたおばあさんを捕まえ、「アラジンって知っていますか」と尋ねてみた。
「ああ、もう少しまっすぐ言った角のところよ。(足利)市民会館の手前。でもまだやってないんじゃないかしら」とおばあさんは、優しく教えてくれた。
しばらく進むと、四辻に一台の木製ベンチがポツンと置いてあった。こんなバス停でもないところにベンチなんて不自然きわまりないので、きっとここだ!と閃いた。
しばらく待っていると、国道の向こう側から、重そうな屋台を引いた男性がやってきた。その後ろには、椅子を両手に持った男性もいる。
「こんにちは、東京から来た川内です」と声をかけると、ビンゴだった。二人が、カフェ・アラジンの二代目、阿部哲夫さんと次郎さんだった。
川内 有緒