朝5時。夜中になってやっぱりパパとママのところに帰る〜と言い出したラビアちゃんを先生のおうちまで送っていき、そのあと、なんとなく目が冴えて昨夜はなかなか寝付けなかったのだが、それでも、私ははっきりと目が覚めて起き上がった。 モハンマド先生も5時半には、やってきた。 早朝のお祈りは、いつもあまり来ないんだけど、昨日は遅くまで食事会があったから、今日は誰も来ないかもしれないな……、と先生が呟いた通り、今朝のお祈りは先生ひとりだけだった。
広い礼拝所で先生は一人、コーランを静かにめくっている。 コーランは一番大切な本だから、下には置かないで、いつも本棚の上の方に置くんですよ、と先生は昨日言っていた。だからだろう、大事そうにそっとコーランを手にして、それに目を通している。
お祈りが始まった、と思ったら、それは5分くらいだろうか、短い時間だった。 はい、朝のお祈りはこれでおしまい、と言って先生はこちらを振り返った。二日間にわたったが、5回のお祈りをこうして全て見学させてもらった、ここ伊勢崎モスクでの私の丸一日の滞在は、とうとう終わろうとしていた。 それでは今日は帰ります、また必ず遊びに来ます、と告げると、先生は「じゃあ駅まで車で送りましょう」と言って立ち上がった。 でも駅までは、たったの徒歩3分なのだ。それには及びません、大丈夫です、と私が恐縮すると、先生は「ダメダメ、ダメダメ! 朝はまだ寒いんだから」と言って、さっと外へ出て行ってしまった。
先生、長時間、取材させていただき、本当にありがとうございました、と私は心からのお礼をいった。その後、ちょっとだけ気になって、こう聞いてみた。 先生、こんなに長く取材して帰る人っていますか? と。 するとモハンマド先生はニコッと笑って、「いない、だいたい1時間か2時間くらいかな」と答えたのだった。 あちゃ……と思ったが、もう仕方がない。でも先生やムスリムのみんなのおかげで、私は日本にいながらにして、外国でも体験できないような1日を経験させてもらえたのだった。
短い距離だから、本当にあっという間に、車は駅へと着いた。またいつでも遊びにいらっしゃい、と言って、それから「電車の中で飲むように」と暖かい紅茶の缶を渡してくれて、先生はまたモスクへと戻っていった。
松本美枝子