そうこうしているうちにモハンマド先生の奥さんと子供たちが、モスクへとやってきた。マリヤム恵美子さん、日本人だ。3人の子供たちも一緒だ。一番上の娘さんで、地元の中学校の制服を着たサナちゃんは、目のぱっちりとしたとてもかわいいい女の子だった。ウルドゥ語がペラペラで、お父さんであるモハンマド先生とは、なんとウルドゥ語で話している!
マリヤム恵美子さんは、先生のお仕事を手伝うというほどではないけれど、時々先生の通訳をしたりします、教えてくれた。
先生のお仕事は礼拝のほかに、どんなことがあるのですが、と恵美子さんに尋ねると、他県のモスクに出張するのだという。先生は日本全国、いろんなモスクに礼拝の出張をするんですよ、茨城もよく行くし、最近は沖縄にいきましたねえ、と恵美子さん。
「それから結婚式とかね……」とモハンマド先生。
結婚式?! と聞き返すと、日本の結婚式とはちょっとイメージがちがうかも……結婚の儀式というか、強いて言えば日本の神前式みたいなものでしょうか、と恵美子さんが教えてくれた。
するとなんと先生が、そういえば今日の夕方、結婚式があるよ! という。見ていってもいい、というので、こんな機会は滅多にないだろうから静かに見学させてもらうことにした。
夕方、日本人女性とムスリム男性のカップルと、それから二人の友人だろうか、結婚の証人となる男性が二人、連れ立ってやってきた。
証人が見ている前で、先生が厳かにコーランの言葉を言い、結婚の誓いを執り行った。今まで私が見たなかで最も短く、そして最も簡潔な結婚式だった。
最後に先生がお祝いとして新婦に現金を渡した。日本の新婦さんはちょっと戸惑って、旦那さんにそれを渡そうとしたが、先生や証人たちに、「あー、いいのいいの! それは旦那さんにあげちゃダメ、奥さんが一人で使うものなんです!」と押しとどめられていた。どうやら伝統的なならわしのようだ。
さて結婚の儀式が終わり、日没後の礼拝にも参加したあと、私は帰りの足がなくなってしまうので、残念だが夜の礼拝は参加できずに、おいとましなければいけないことを先生に告げた。
するとモハンマド先生が「美枝子さん、明日の土曜日の夜の礼拝は、また集団礼拝なので、たくさんの人が来ます。礼拝のあとはみんなでご飯を食べるし、きっと奥さんたちや、それからムスリムではない日本人も来ますよ。参加したら、きっとあなたにとっていいと思う。だから今日は私のうちか、このモスクに泊まっていきなさい」というではないか。
なんと! それは参加したい……! それにぜひみなさんのところにも泊まってみたい。でも私は残念ながら明日の朝一で、水戸で撮影の仕事が入っていたのだった。先生にそう言うと、じゃあ、また明日の夜においでなさい。明日はきっと夜遅くまでみんなモスクにいるから、そのあとモスクへ泊まっていくといい、といってくれた。
私はうれしくなり、今日のところはひとまず帰宅することにしたのであった。
松本美枝子