未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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群馬の中の小さな異国、モスクのなかの広い世界

伊勢崎モスクでの長い1日

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.62 |10 March 2016
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#6良い名前

さてだんだん日が暮れてきた。そろそろ4時、夕方のお祈りの時間だ。誰もが働いているから、この時間はそんなには人が集まらないそうだけれど、それでも数人のムスリムたちがやってきた。
ちなみに集団礼拝以外の、普段のお祈りはさほど長くはないので、会社や家など、みんなそれぞれができる場所で、マットを広げて行う。「日本の会社では時間になると、お祈りを快くやらせてくれるので、できなくて困った話は一度も聞いたことがないですよ」と先生は言う。
そして時間がある人は、こうしてモスクにやってきて先生と一緒にお祈りするのだ。

タリークさんたちパキスタン人の他に、20代くらいの若い男性が二人やってきた。おそらく東南アジア出身だろうか。今日は先生にインタビューしにきました、とカメラを向けるジェスチャーをすると、二人はにっこりと笑顔を返してくれた。二階の礼拝所に上がると、入り口にあるムスリムの正装である帽子をきちんとかぶって、お祈りが始まった。
15分くらいのお祈りが終わると、みんなが先生の元に集まり、笑顔を交わして、握手をしたり抱き合ったりしていた。

フェリプティさん(左)とユースラさん(右)

先ほどの若い二人はインドネシア出身だという。牛乳会社に勤めているユースラさんとメッキ工場に勤めるフェリプティさん。モハンマド先生が「インドネシアの子たちは本当に仕事熱心で、まじめなんだよ」と二人の肩をたたきながら言う。
みんなの名前の発音が難しいので、私が何ども聞きかえしたりしていると、ユースラさんが「タリークさんの名前、いいなあ、僕、好きです」と言いだした。タリークさんもそれを聞いて、にっこりしている。

なぜ? と聞くと、ユースラさんが「ムスリムの名前には、みんなイスラムの伝統的な意味があるんです」と教えてくれた。タリークとはアラビア語で、ムスリムの間では昔からよくつけられる、良い名前なのだという。そしてユースラさんは笑顔で「僕の名前には<優しい>という意味があるんです」と流暢な日本語で教えてくれた。

お祈りのあとに淹れてもらった本格的なチャイ。
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未知の細道 No.62

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。