さてだんだん日が暮れてきた。そろそろ4時、夕方のお祈りの時間だ。誰もが働いているから、この時間はそんなには人が集まらないそうだけれど、それでも数人のムスリムたちがやってきた。
ちなみに集団礼拝以外の、普段のお祈りはさほど長くはないので、会社や家など、みんなそれぞれができる場所で、マットを広げて行う。「日本の会社では時間になると、お祈りを快くやらせてくれるので、できなくて困った話は一度も聞いたことがないですよ」と先生は言う。
そして時間がある人は、こうしてモスクにやってきて先生と一緒にお祈りするのだ。
タリークさんたちパキスタン人の他に、20代くらいの若い男性が二人やってきた。おそらく東南アジア出身だろうか。今日は先生にインタビューしにきました、とカメラを向けるジェスチャーをすると、二人はにっこりと笑顔を返してくれた。二階の礼拝所に上がると、入り口にあるムスリムの正装である帽子をきちんとかぶって、お祈りが始まった。
15分くらいのお祈りが終わると、みんなが先生の元に集まり、笑顔を交わして、握手をしたり抱き合ったりしていた。
先ほどの若い二人はインドネシア出身だという。牛乳会社に勤めているユースラさんとメッキ工場に勤めるフェリプティさん。モハンマド先生が「インドネシアの子たちは本当に仕事熱心で、まじめなんだよ」と二人の肩をたたきながら言う。
みんなの名前の発音が難しいので、私が何ども聞きかえしたりしていると、ユースラさんが「タリークさんの名前、いいなあ、僕、好きです」と言いだした。タリークさんもそれを聞いて、にっこりしている。
なぜ? と聞くと、ユースラさんが「ムスリムの名前には、みんなイスラムの伝統的な意味があるんです」と教えてくれた。タリークとはアラビア語で、ムスリムの間では昔からよくつけられる、良い名前なのだという。そしてユースラさんは笑顔で「僕の名前には<優しい>という意味があるんです」と流暢な日本語で教えてくれた。
松本美枝子