未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
62

群馬の中の小さな異国、モスクのなかの広い世界

伊勢崎モスクでの長い1日

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.62 |10 March 2016
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#2お昼のお祈り

異国の香料が焚きこめられたモスクのなかで、静かに礼拝の時間が始まった。

その少し前。「本来ならば女性は入れないのですが、今日は特別にいいですよ」と宣教師のモハンマドさんが言って入れてくれたので、お祈りをしている人たちの邪魔にならないよう、きちんとスカーフを頭に巻きなおしてから、礼拝所の隅っこで、これでもか、というほど体を縮めて写真を撮り始める。

最初は10人くらいのムスリムで始まったお祈りだったのに、時間が経つにつれて、どんどんどんどん人が増えていく。今、100人くらいはいるかしら?  入ってくる人たちはみな外国人の男性ばかり。日本人は私以外一人もいない。見たところ、南アジアや東南アジア出身の人たちが多いようだ。

ここは一体どこだっけ? そうだ、ここは日本だ。
群馬県の伊勢崎市だ、ということを一瞬忘れてしまうくらい、ふだん私が見慣れた風景から、この場所は遠く離れているように感じられた。

次々と部屋に入ってくる男性たちは私を見るたびに、時にはニコッとしてくれる人もいるが、でもたいていはちょっとびっくりした顔をこちらに向ける。しかしそれはほんの一瞬のことで、訪れる人たちはみなすぐに穏やかで真剣な礼拝の時間へと戻っていく。

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未知の細道 No.62

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。