次の日、春のように少し暖かな雨が降る土曜日の夜。私は水戸から3時間をかけ、二日連続で伊勢崎モスクへとやってきていた。
今日はお父さんやお母さんに連れられて、子供たちもたくさん来ている。
イスラム教では女性は、男性とは別の礼拝所でお祈りをする。お父さんに連れられて来た女の子たちは、一人で女性用の礼拝室に入ってくる。外国人の奥さんたちは、部屋に入ると全員のところに回って笑顔で握手を求めてくる。
パキスタン人のお父さんと日本人のお母さんと3人で来たという、ハーフの女の子もいた。イスラムの歴史を私が質問すると、とても丁寧に教えてくれる、かわいい小学生だった。
土曜日の礼拝はとても長い。19時45分から始まったお祈りが終わると、こんどはコーランの勉強会がはじまる。それは男性たちが先生を囲んでコーランの誦み方を学ぶ時間だ。コーランはまるで美しい歌のように誦する。その発音は、より美しいほうがいいので、若い人からお年寄りまでが、その誦み方を勉強するのだ。
コーランを誦する声は、22時近くまで続いた。
それが終わると、さあ、みんなで食事の時間だ。
まるで小学校の給食室にあったような大きな鍋いっぱいに入ったカレーが、いつのまにか運ばれてきていた。
礼拝所の中で男性たちは横に長いクロスを引いて一列にすわり、そこにカレーとナンがどんどんサーブされていく。
私は奥さんたちと一緒にご飯をごちそうになった。今夜は豆とマトンが一緒に入っているカレーだ。先生の次女で6歳になるラビアちゃんに、上手にナンでカレーをすくう方法を教えてもらいながら食べる。小学生たちと学校の勉強の話をしたり、日本人の奥さんにパキスタンに里帰りした時の話なんかを聞きながら。
うん、今夜も昨日以上においしいカレーだ! それはたぶん、昨日よりさらにたくさんの人たちと一緒に、おしゃべりしながら食べたからなのかもしれなかった。
男性たちの食事の場に行くと、中沢さんという日本人の男性がムスリムに混ざってご飯を食べていた。中沢さんもムスリムですか? と尋ねると中沢さんが答えるより先に周りのみんなが、興味は持ってるけど、まだムスリムじゃないよね、などと笑いながらいう。
中沢さんはこの近所で偶然、モハンマド先生と知り合いになり、それからこの伊勢崎モスクへ来るようになったのだという。中沢さんは、まだ自分が知らない世界に興味があるんだ、と話してくれた。いろんなことを知ることは楽しいよね、と。先生が「私は中沢さんのこと、大好きなんです!」といいながら、中沢さんの肩を抱く。
それから先生は、ここにはムスリムじゃなくても、いつでも誰でも来ていいんですよ、といって、群馬大学や早稲田大学、明治大学などの学生たちや地元の行政の人が見学に来た時の写真や、見学者たちがメッセージを残したゲストブックを見せてくれた。以前には泊まるところがなくて困っているというホームレスを泊めたこともありましたねえ、と先生。
ゲストブックにびっしり書き込まれた感想や、大学生たちがモスクのなかで笑顔を向けている写真からは、なんだかとても楽しそうな雰囲気が伝わってきたのだった。
そうこうしているうちに、夜は更け、ムスリムのみんなは一人二人と帰って行き、私はモスクに泊まらせてもらうことになった。こんな経験はそうそうあるものではない。モハンマド先生の親切な気遣いに、私は心から感謝していた。
「今日はモスクで一緒に寝る!」と言い出したラビアちゃんを残して、先生は「明日の朝は5時半ごろお祈りに来るけれど、寝ていて、いいですからね!」と言いながらすぐ近所にあるおうちへと帰って行った。
松本美枝子