どうして私が今、日本の伊勢崎にあるモスクにいるのかというと、その理由は、8か月前の初夏に遡る。その時、私は一か月ほど撮影の仕事で、マレーシアに滞在していた。
仕事の内容は、日本とマレーシアのアーティストたちによるアートプロジェクトのアーカイブ撮影。マレーシアは世界有数の多民族国家だ。モノカルチャーが当たり前の日本に住んでいると到底想像できないような、様々なルーツと宗教を持つ人たちが共生している国なのだ。
撮影現場であるギャラリーの隣には、バングラデシュ出身ムスリムたちのコミュニティがあって、私は毎日その食堂でご飯やお菓子を作ってもらって暑いマレーシアの夏を過ごした。毎朝、食堂の前を通るとそこのおじさんたちが、おー、おはよう! と声をかけてくれる。
それからギャラリーにはマヘディという、めちゃくちゃデキるバングラデシュ人のスタッフがいた。彼は「気は優しくて力持ち」という典型的なナイスガイで、私たち日本人スタッフに困りごとや頼みごとが発生すると、いつもすぐにそれを解決してくれるのであった。
時間があれば、近所のムスリムたちが集まる所に連れていってくれることもあった。滞在中、ちょうどラマダン(イスラム教徒の重要な宗教活動の一つ。期間中は毎日、日没まで断食する)があり、毎日、夜になると私たちを招いてくれて一緒に晩ご飯を食べたのも、楽しい思い出だった。
マヘディたちムスリムの、他者に対するホスピタリティの深さに触れたのが、仕事そのものより、私にとってその滞在中、最も心に残った思い出だったのかもしれない。
その思い出が帰ってからの私に、日本にいながらもう少しイスラム教を知ることはできないだろうか? と考えさせてくれたのであった。
松本美枝子