未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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群馬の中の小さな異国、モスクのなかの広い世界

伊勢崎モスクでの長い1日

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子
未知の細道 No.62 |10 March 2016
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#3ムスリムのホスピリタリティ

どうして私が今、日本の伊勢崎にあるモスクにいるのかというと、その理由は、8か月前の初夏に遡る。その時、私は一か月ほど撮影の仕事で、マレーシアに滞在していた。
仕事の内容は、日本とマレーシアのアーティストたちによるアートプロジェクトのアーカイブ撮影。マレーシアは世界有数の多民族国家だ。モノカルチャーが当たり前の日本に住んでいると到底想像できないような、様々なルーツと宗教を持つ人たちが共生している国なのだ。

撮影現場であるギャラリーの隣には、バングラデシュ出身ムスリムたちのコミュニティがあって、私は毎日その食堂でご飯やお菓子を作ってもらって暑いマレーシアの夏を過ごした。毎朝、食堂の前を通るとそこのおじさんたちが、おー、おはよう! と声をかけてくれる。
それからギャラリーにはマヘディという、めちゃくちゃデキるバングラデシュ人のスタッフがいた。彼は「気は優しくて力持ち」という典型的なナイスガイで、私たち日本人スタッフに困りごとや頼みごとが発生すると、いつもすぐにそれを解決してくれるのであった。

時間があれば、近所のムスリムたちが集まる所に連れていってくれることもあった。滞在中、ちょうどラマダン(イスラム教徒の重要な宗教活動の一つ。期間中は毎日、日没まで断食する)があり、毎日、夜になると私たちを招いてくれて一緒に晩ご飯を食べたのも、楽しい思い出だった。

マヘディたちムスリムの、他者に対するホスピタリティの深さに触れたのが、仕事そのものより、私にとってその滞在中、最も心に残った思い出だったのかもしれない。
その思い出が帰ってからの私に、日本にいながらもう少しイスラム教を知ることはできないだろうか? と考えさせてくれたのであった。

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未知の細道 No.62

松本美枝子

1974年茨城県生まれ。生と死、日常をテーマに写真と文章による作品を発表。
主な受賞に第15回「写真ひとつぼ展」入選、第6回「新風舎・平間至写真賞大賞」受賞。
主な展覧会に、2006年「クリテリオム68 松本美枝子」(水戸芸術館)、2009年「手で創る 森英恵と若いアーティストたち」(表参道ハナヱ・モリビル)、2010年「ヨコハマフォトフェスティバル」(横浜赤レンガ倉庫)、2013年「影像2013」(世田谷美術館市民ギャラリー)、2014年中房総国際芸術祭「いちはら×アートミックス」(千葉県)、「原点を、永遠に。」(東京都写真美術館)など。
最新刊に鳥取藝住祭2014公式写真集『船と船の間を歩く』(鳥取県)、その他主な書籍に写真詩集『生きる』(共著・谷川俊太郎、ナナロク社)、写真集『生あたたかい言葉で』(新風舎)がある。
パブリックコレクション:清里フォトアートミュージアム
作家ウェブサイト:www.miekomatsumoto.com

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。