未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「店主こだわりの一杯」ではなく「一人ひとりの飲みたいもの」が並ぶ店 世界から注目される盛岡の小さなコーヒー店の軌跡

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.274 |10 February 2025
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#7「焙煎機を置くために」リニューアルオープン

UG-15で焙煎した豆の豊かさに魅了された長澤さんは、「自分で焙煎して検証してみたい」という強い思いに駆られた。そこで焙煎機を取り扱う業者に「なんとか手に入らないですか」と相談し、探してもらった。

「見つかった」と連絡が来たのは1年後のこと。

「これがまた笑い話でね」と、長澤さんは楽しげに当時を振り返る。

「見つかったは良いものの、資金もないし、店が狭くて置く場所もない。それなのに私、『買います』って即決しちゃったんですよ。お金のことは後から考えればいいやって」

笑っている長澤さんに、「ちなみにこの焙煎機はおいくらするんですか……?」と尋ねてみた。

「このメーカーが昨年、復刻版を出したんです。それが1800万円。それよりは安く済みましたけどね」

立派な機械だから数百万はしたんだろうなぁなどと呑気に想像していた私は、「1800万円」と聞いて「ウェーッ!?」と野太い声を出してしまった。どう考えても、資金や置き場所の目処がついていない状態で「即決できる金額」ではない……。

混乱している頭を切り替えて、「ご家族の反対はなかったですか?」と聞いた。

「反対はなかったですね。次につながる投資だって認識が、互いにあったんです」

奇跡的なタイミングで、長澤さんに朗報が舞い込んだ。隣の店舗が空くというのだ。設備や什器は一切ないスケルトン状態で費用はかさむが、焙煎機を置くには十分な広さがある。悩む理由はなかった。

入り口近くに設置されるUG-15。入店した瞬間に目を奪われる存在感

こうして2018年10月1日、「Nagasawa COFFEE」がリニューアルオープン。ドイツで見つかったUG-15は、現地の業者によるオーバーホール(部品を分解し、機械全体の点検や洗浄、修理を行うこと)やカスタマイズを経て、10月25日に同店に設置された。ドイツからの輸送と、設置工事を含む日本での陸送にかかった金額を合わせると「国産の小型車が1台買えるくらい」。

設置後にテスト焙煎を繰り返し、データを蓄積すること2週間。UG-15で焙煎したコーヒーの提供を開始したのは、11月9日のことだ。

ちなみに店内は30坪と以前の倍以上の広さになったが、客席は16席のまま増やしていないという。

「設計士さんには『なんで席を増やさないんですか』とびっくりされましたよ。でもせっかく広いところに移るのなら、ゆったりとしたスペースでコーヒーを楽しんでほしかったんです」

かつて雪山で味わったような、ゆったりとおいしいコーヒーを飲める空間を、長澤さんはつくった。

ここから「Nagasawa COFFEE」は、めざましい勢いで世界に羽ばたいていく。

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