出店計画が振り出しに戻ったショックのなか、長澤さんは自分にできることを模索していた。
「コーヒーのことなら力になれるかもしれない」と考えていた長澤さんのもとに、ひとつの知らせが届く。もともとつながりのあった都内のカフェ経営者が、「有志を募って被災地にコーヒーを届ける」というのだ。話を聞いた長澤さんもすぐに手をあげた。
震災後しばらくは、高速道路は通行止めになりガソリンも手に入らない状況。復旧のきざしが見えた4月10日、仲間たちのトラックに乗り込み、長澤さんは石巻へと向かった。都内のドトールやスターバックス、タリーズコーヒー、UCCなどで働く有志が20人ほど集まっていた。
50キロ規制がかかった高速道路は、亀裂が入って、ボコボコと盛り上がっていた、と当時を振り返る。
「石巻は、とにかく瓦礫だらけだったことを覚えています。車がギリギリ通れる細い道の脇に、瓦礫の山ができていました」
避難所になっていた校舎や体育館に到着し、持参した道具でコーヒーを淹れて配ると、「コーヒーが飲みたかったんです」とすごく喜ばれた。長澤さんはその後も可能な限り、被災地にコーヒーを届けに行った。
この経験が「Nagasawa COFFEE」の原点となる。
「喜んでくれている人たちの姿に、コーヒーの本質を見た気がしました。一人ひとりに喜んでもらるものを出せなきゃコーヒー屋じゃないよなって。諦めないでもう一度頑張ろうと、力をもらったんです」
それまで長澤さんは、自分好みの浅煎りに特化したコーヒーを扱う店にしたいと考えていた。しかし、自身のこだわりの一杯ではなく、「来てくれる人の飲みたいものを提供できる店」にしたいと考えが変わった。
出店に向け、再スタートした長澤さん。前回のようにこだわりを持たず、開業することを第一に物件を探した。もともと飲食店だった居抜きの店舗が見つかると、内装も変えないままに「Nagasawa COFFEE」をオープン。
震災の日からちょうど10カ月。2012年1月11日のことだった。
「私も震災をきっかけにゼロからスタートしたので、オープンの日を11日にしたんです。被害にはあっていないけど、東北に住む自分たちの思いは一緒という意味も込めて」
未知の細道の旅に出かけよう!
世界から注目される盛岡の小さなコーヒー店の軌跡
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