未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「店主こだわりの一杯」ではなく「一人ひとりの飲みたいもの」が並ぶ店 世界から注目される盛岡の小さなコーヒー店の軌跡

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.274 |10 February 2025
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#4被災地で見た「コーヒーの本質」

出店計画が振り出しに戻ったショックのなか、長澤さんは自分にできることを模索していた。

「コーヒーのことなら力になれるかもしれない」と考えていた長澤さんのもとに、ひとつの知らせが届く。もともとつながりのあった都内のカフェ経営者が、「有志を募って被災地にコーヒーを届ける」というのだ。話を聞いた長澤さんもすぐに手をあげた。

震災後しばらくは、高速道路は通行止めになりガソリンも手に入らない状況。復旧のきざしが見えた4月10日、仲間たちのトラックに乗り込み、長澤さんは石巻へと向かった。都内のドトールやスターバックス、タリーズコーヒー、UCCなどで働く有志が20人ほど集まっていた。

50キロ規制がかかった高速道路は、亀裂が入って、ボコボコと盛り上がっていた、と当時を振り返る。

「石巻は、とにかく瓦礫だらけだったことを覚えています。車がギリギリ通れる細い道の脇に、瓦礫の山ができていました」

避難所になっていた校舎や体育館に到着し、持参した道具でコーヒーを淹れて配ると、「コーヒーが飲みたかったんです」とすごく喜ばれた。長澤さんはその後も可能な限り、被災地にコーヒーを届けに行った。

この経験が「Nagasawa COFFEE」の原点となる。

「喜んでくれている人たちの姿に、コーヒーの本質を見た気がしました。一人ひとりに喜んでもらるものを出せなきゃコーヒー屋じゃないよなって。諦めないでもう一度頑張ろうと、力をもらったんです」

それまで長澤さんは、自分好みの浅煎りに特化したコーヒーを扱う店にしたいと考えていた。しかし、自身のこだわりの一杯ではなく、「来てくれる人の飲みたいものを提供できる店」にしたいと考えが変わった。

出店に向け、再スタートした長澤さん。前回のようにこだわりを持たず、開業することを第一に物件を探した。もともと飲食店だった居抜きの店舗が見つかると、内装も変えないままに「Nagasawa COFFEE」をオープン。

震災の日からちょうど10カ月。2012年1月11日のことだった。

「私も震災をきっかけにゼロからスタートしたので、オープンの日を11日にしたんです。被害にはあっていないけど、東北に住む自分たちの思いは一緒という意味も込めて」

未知の細道のに出かけよう!

こんな旅プランはいかが?

世界から注目される盛岡の小さなコーヒー店の軌跡

最寄りのICから【E4】東北自動車道「盛岡IC」を下車
1日目
まずは「NAGASAWA COFFEE」へ。浅煎りから深煎り、カフェラテ、エスプレッソなど、ラインナップが充実したメニューのなかからお気に入りの飲み物を見つけよう。スイーツセットを注文して、広々とした店内でゆったり過ごすものおすすめ。その後は、「盛岡城跡公園」を散歩して、盛岡の自然や歴史を楽しむ。
NAGASAWA COFFEE
盛岡城跡公園
2日目
ニューヨーク・タイムズの「2023年に行くべき52カ所」に選ばれた盛岡市内を散策しよう。国指定重要文化財の「岩手銀行赤レンガ館」や「もりおか啄木・賢治青春館」を巡り、夜は夜景を眺めに岩山展望台へ。盛岡冷麺や地ビールである「ベアレンビール」など、盛岡ならではのグルメも堪能してみては。
もりおか啄木・賢治青春館
岩山公園

※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
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