未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「店主こだわりの一杯」ではなく「一人ひとりの飲みたいもの」が並ぶ店 世界から注目される盛岡の小さなコーヒー店の軌跡

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.274 |10 February 2025
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#6ヴィンテージの焙煎機の出会い

中国雲南省のコーヒー農園を訪ねた際に撮影(写真提供:長澤一浩さん)

長澤さんは2012年の開店直後から、妻のゆかりさんに店を任せ、世界各国のコーヒー店や生産者を訪ね歩くようになった。アメリカ、エチオピア、ボリビア、エルサルバドル、台湾、ペルー、タイなど、その足跡は多岐にわたる。

「はじめて行ったのは中米だったかな。バカな話だけど、お客さんがぜんぜん来ていなくて売上もないのに、銀行から50万円借金してまで行ったんです。この焙煎機を知ったのも海外のコーヒー店を巡っていた時なんですよ」

長澤さんが目を向けるのは、ヴィンテージの焙煎機「UG-15」。1960年代にドイツのプロバット社で製造された機種で、世界的に人気があるという。日本でUG-15を取り扱うコーヒー店はまだ少なく、東北では「Nagasawa COFFEE」のみだ。

「写真や映像で見るより、ずっと大きいですね」と私が感想を漏らすと、長澤さんは「1トンくらいあるんですよ。硬くて重い鉄を使って造られているんです」と教えてくれた。

長澤さんは、アメリカやオーストラリアのコーヒー店でUG-15を見た時、「かっこいいから使ってるんだろう」程度に考えていたそうだ。しかし、UG-15で焙煎された豆を日本に持ち帰って飲んだときに気づいた。時間が経っているはずなのに、風味がまったく落ちていないのだ。

UG-15で焙煎した豆が特別である理由を、長澤さんはこう分析する。

「鉄が硬くて厚いので温まりにくいのですが、一度温まると蓄熱され、火の熱とは別の輻射熱も加わって、特有の焙煎ができるのだと思います。香りと甘みがでやすいですし、いちばんは風味の劣化が遅いんです」

一般的に、焙煎した豆は30日を過ぎると香りが落ち、酸化して苦味やえぐみが出ると言われる。しかし、UG-15で焙煎した豆は「30日経っても、まだまだこれから」。賞味期限の表示は60日にしているが、「90日でも良いくらいです」と長澤さんは自信を見せる。

店内では、焙煎した豆やドリップコーヒーなども購入できる

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