未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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「店主こだわりの一杯」ではなく「一人ひとりの飲みたいもの」が並ぶ店 世界から注目される盛岡の小さなコーヒー店の軌跡

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.274 |10 February 2025
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#2雪山で飲んだコーヒーをきっかけに「店を出したい」

盛岡市で生まれ育った長澤さん。高校卒業後は市内にあるコーヒー豆の卸売会社に就職し、約5年間営業や配達の仕事に携わった。

昔からコーヒーが好きだったのかと思いきや、「苦くてぜんぜん好きじゃなかった」。コーヒーへの特別な興味があったわけではなく、たまたま求人を見つけて応募したら、採用された。この頃に得たのは、コーヒー豆の産地による特徴など、ごく基礎的な知識だけだったという。

「若い時は本当に適当だったんですよ。自分がやりたいことが優先でした」

仕事のない土日になると、当時夢中になっていたスノーボードを楽しみに雪山に繰り出した。スキー場ではなく、「バックカントリー」と呼ばれる整備されていない雪山で滑るのが好きだった。

雪山に向かう時、長澤さんはポットにコーヒーを入れて持参するようになった。豆や淹れ方にこだわったわけではないが、雪山で飲むコーヒーは「すごくおいしかった」という。

「コーヒー店って隣との席がぎゅっと近くて、ガヤガヤしてるじゃないですか。景色のいい雪山でゆったりとコーヒーを飲んだ時、はじめてコーヒーをおいしいと思ったんですよ。味はもちろん大切だけど、コーヒーはどこで飲むかも大切なんだなあと思いました」

スノーボードにのめり込んだ長澤さんは、27歳で仕事をやめる。夏は墓石を建てる短期のアルバイトなどでしっかりと稼ぎ、冬は雪山にこもって過ごした。

コーヒーはあくまで趣味の範疇だったが、見よう見まねで手網で焙煎したり、価格の高い豆を使ってみたりと、納得のいく一杯を追求するようになっていった。

「コーヒーの店がやりたい」とぼんやり考え始めたのは、30歳を過ぎた頃のことだ。

コロンビアの豆を使った中煎りのコーヒー

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