もとの店舗から道を挟んで向かい側にある現在の店舗に移転したのは、2013年4月。実家の改築に合わせて、より広い店舗を設けた。改築した実家の庭に新たに畑を作り、そこで採れた果物や植物、野菜を酵母におこした。
パン屋として多忙になりながらも、酵母作りへの情熱は衰えない。好奇心の赴くままにこれまで50種類もの酵母を生み出してきた太郎さんが特に強い思い入れを持つのは、花の酵母だ。
「花には蜜があって蜂が集まるわけだから、間違いなく酵母に向いていると思ったんです。うまくいけば花の香りも楽しめる面白いパンになるなと興味が湧きました。それで八重桜やバラ、金木犀の酵母で焼いたパンを食べてみたら、花の香りがフッと鼻に抜けた瞬間、遠い記憶とリンクして、懐かしい景色が見えた気がしたんです。同じように過去の記憶が蘇ったというお客さんもいました」
八重桜と金木犀は、自宅の庭に植えた樹に咲いたものを使う。バラは自宅の庭で育てているものに加えて、タロー屋のお客さんからも仕入れている。
「たまたまお店に来てくれたお客さんと話をしていたら、食用のバラを育てているというので、今度見せてくださいとお願いしたんです。実際に訪ねると、種類も豊富で丁寧に手入れされたバラが咲いていたので、酵母に使わせてもらうことになりました」