梨平を後にし、バスの中で「次は雪崩のあとを見にいきます」と伊藤さん。つい最近起こったばかりの雪崩を、安全な場所から見られるところがあるそうだ。
往来の多い道路の端にバスを停めて降りる。歩道から斜面を見上げると、すぐそこに雪と土砂が混じったごちゃごちゃの塊が広がっていた。これがいわゆるデブリ(雪崩末端部に堆積した雪や押し流されてきた岩石、土砂、樹木のこと)だ。
手前に防雪柵はあるとはいえ、私たちがいる歩道からほんの数メートルといったところ。まったくの生活圏内で雪崩が起きている、ということなのだ。
ついさっきやったピットチェックは表層雪崩についての確認だったが、今、目の前にあるのは、全層雪崩だ。気温が緩み、地面に接する雪面から滑り落ちてくるので、土砂も混ざっているのが全層雪崩の特徴だ。ぱっと見たところ、さほど大きな雪崩とも思えない。しかし、この規模でも、もし巻き込まれたら命を失う、と伊藤さんは言った。生まれて初めてみるデブリを見て、私は恐ろしくなった。
恐ろしいデブリを後にして次に向かったのは、村の中心部にある「雨中 無散水式融雪路」と「下里瀬 雪崩防護用スノーネット」だ。特にスノーネットはこれまで見てきた防雪施設と違って「柔構造物」という。
読んで字の如くだが、雪崩を減勢させる役割を十分に果たしているそうだ。強固な構造物と違って、環境や景観への影響も少なく、また経費の削減にも一役買っている。
さまざまな種類の防雪施設があるのだなあ、と私は思った。それらを組み合わせて、村の生活を守っているのだ。