石川県金沢市
金沢を訪れたのは、これが二度目。一度目に来たときに、近江町(おうみちょう)市場でかぶらずしというものをはじめて買い、二度目はかぶらずしを作りに来たのだから、どれだけわたしがかぶらずしに魅了されてしまったかがわかるだろう。むかしは特別な人しか食べられなかったというそのおいしさに、ふたたび会いに行った。
最寄りのICから【E8】北陸自動車道「金沢東IC」を下車
最寄りのICから【E8】北陸自動車道「金沢東IC」を下車
石川県は、日本地図の中でもとてもわかりやすい形をしている。本州からぴょこんと日本海に飛び出ていて、ちょっとくびれたところの下あたりが金沢、上は能登半島だ。この地形の恩恵で、周囲の海は天然のいけすと呼ばれるほど、海の幸がふんだんに捕れる。
金沢には茶道文化が根づいているのも、大きな特徴のひとつだ。千利休からじきじきに手ほどきを受け、茶の湯に関心を持った加賀藩祖・前田利家にはじまり、五代藩主である綱紀のころには、町人までもが作法を身につけるほど広がった。
茶道を中心にして加賀料理や和菓子が生まれ、加賀友禅や九谷焼などの工芸品も、この土地ならではの発展の仕方をしている。加賀藩の城下町となった金沢は豊かで、自然とおいしいものが集まる場所だったのかもしれない。
三年前にはじめて来たとき、その独特な食文化に驚いた。石川県は伝統野菜の種類が多く、戦前から栽培している加賀れんこんや金時草などは、加賀野菜としてブランド化している。日本酒や醤油の蔵元もたくさんあり、魚介が豊富なので保存食や発酵食にも富んでいる。
郷土料理はハゼ科の小魚であるゴリの佃煮や、ふぐの卵巣の糠漬け、鴨肉の治部煮など、食材だけ取ってみても東京生まれのわたしにはめずらしいものばかりだ。
そんななかで出会ったのが、「かぶらずし」だった。金沢駅から徒歩15分ほどのところにある、近江町市場という観光客でひしめく市場でのできごとだった。