未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
200

金沢で出会った、ハレの日の伝統発酵食 泉鏡花が芥川龍之介に贈ったお漬物「かぶらずし」を作りに

文= 吉川愛歩
写真= 吉川愛歩
未知の細道 No.200 |27 December 2021
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#2はじめての味が金沢の思い出に

威勢のいい呼び声を聞きながら店々を見て歩いていると、おじさんが漬物樽から何やら取り出しているのが目に入った。看板もないし、お店というんじゃなく、ちょっと長机を出してきて勝手に売っているみたいな、そんな一角だった。

近江町市場には海産物をメインに野菜や乾物、加賀棒茶などもあり、金沢の味がすべて揃う。

「それ、何ですか?」と尋ねると、おじさんは「かぶらずし」と、ぶっきらぼうに言った。売り物じゃないのかな。それともひやかしだと思われたのかもしれない。こういうときわたしはすぐに怯んでしまうのだけど、それがなんなのか本当に興味があった。

おじさんは漬物樽に入った白くてまあるい、お餅のようにも見える何かをビニール袋にひとつずつ入れていく。「すし」かあ。わたしがあんまり好きじゃないものかしら。発酵させたすっぱい魚は苦手なのだ。それでもわたしは突っ立ってしばらく見ていた。

「かぶに、ブリを挟んで発酵させたやつなの」

「ブリ? この中にブリが入ってるの?」

おじさんは丁寧に手をひらいた。近づいてみると、かぶにはハンバーガーのような切り込みが入っていて、うすピンク色のものが挟まっていた。

かぶらずしは、こんなふうにパカンと開いたかぶにブリを挟んでいく。

「へえ。ひとつください」

思わず言うと、おじさんは、よしよし、みたいな顔をしてうなずき、「ケーキみたいに、こうして切って食べるのよ」と、右手を包丁に見立てて教えてくれる。

「わかった」

わたしは子どもみたいにうなずいて、それをカバンにしまう。600円か800円だった。いったいどんな味なのかまったくわからないまま、東京に帰った。

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