未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
200

金沢で出会った、ハレの日の伝統発酵食 泉鏡花が芥川龍之介に贈ったお漬物「かぶらずし」を作りに

文= 吉川愛歩
写真= 吉川愛歩
未知の細道 No.200 |27 December 2021
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#3おすしのはじまり

新幹線の中で開けてしまいたい気持ちをこらえて帰り、たぶんわたしはコートを脱ぐ前にかぶらずしを切ったと思う。はじめましてのものに出会うことなんて、大人になるにつれてだんだんなくなっていくから、それだけで嬉しかったのだ。

これが発酵した後のかぶらずし。三角形に切り分ける。

教わったようにまず半分に切り、それを半分の半分にしてみて、困った。どのくらい口に入れるべきだろう。すごくしょっぱいんだとしたら、ひとくちで食べてはいけないのかもしれない。迷った末、でもひとくちで食べた。

そうしたらもう。
なんでひとつしか買ってこなかったんだろう! ってくらいにおいしかったのだ。

それからようやく、「かぶらずしとは何なのか」について調べることにした。食べる前にそうしてもよかったんだけど、知らないものを知らないままに食べたときの感動を味わいたいじゃない。知ることはいつでもできるけど、一度知ってしまったら知らなかったときに戻れない。これはわたしの勝手な、生活のルールだ。

さて、そんなかぶらずし。「すし」という名がついているけれど、よく知っているお寿司とはぜんぜん違う。ただ、まったく切り離せる別物というわけでもない。むかしは冷蔵庫がなかったので、魚をお米とともに発酵させて食べる「熟れ鮓(なれずし)」がよく作られていたのだが、これが寿司のはじまりで、かぶらずしはこの熟れ鮓の一種である。

熟れ鮓の中でも、「飯ずし(いずし)」という、魚と野菜を米麹に漬けるものが北海道から北陸あたりに広がり、かぶらずしは飯ずし系の熟れ鮓といえる。石川県の郷土料理で似ているものとしては、ほかにも大根と身欠きニシンで漬ける大根ずしがある。作り方がかぶらずしより簡単なので、今でも手作りしている家庭があるという。

いちばん手前のものが大根ずし。分厚く切った大根にニシンをのせて発酵させる。
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