新幹線の中で開けてしまいたい気持ちをこらえて帰り、たぶんわたしはコートを脱ぐ前にかぶらずしを切ったと思う。はじめましてのものに出会うことなんて、大人になるにつれてだんだんなくなっていくから、それだけで嬉しかったのだ。
教わったようにまず半分に切り、それを半分の半分にしてみて、困った。どのくらい口に入れるべきだろう。すごくしょっぱいんだとしたら、ひとくちで食べてはいけないのかもしれない。迷った末、でもひとくちで食べた。
そうしたらもう。
なんでひとつしか買ってこなかったんだろう! ってくらいにおいしかったのだ。
それからようやく、「かぶらずしとは何なのか」について調べることにした。食べる前にそうしてもよかったんだけど、知らないものを知らないままに食べたときの感動を味わいたいじゃない。知ることはいつでもできるけど、一度知ってしまったら知らなかったときに戻れない。これはわたしの勝手な、生活のルールだ。
さて、そんなかぶらずし。「すし」という名がついているけれど、よく知っているお寿司とはぜんぜん違う。ただ、まったく切り離せる別物というわけでもない。むかしは冷蔵庫がなかったので、魚をお米とともに発酵させて食べる「熟れ鮓(なれずし)」がよく作られていたのだが、これが寿司のはじまりで、かぶらずしはこの熟れ鮓の一種である。
熟れ鮓の中でも、「飯ずし(いずし)」という、魚と野菜を米麹に漬けるものが北海道から北陸あたりに広がり、かぶらずしは飯ずし系の熟れ鮓といえる。石川県の郷土料理で似ているものとしては、ほかにも大根と身欠きニシンで漬ける大根ずしがある。作り方がかぶらずしより簡単なので、今でも手作りしている家庭があるという。