「やっぱり、子どものころからかぶらずしが好きだったんですか?」
そう尋ねると、四十万谷さんはにっこりと笑って、「そんなことないんですよ」と言う。
「小さいころは、ぜんぜんです。身近にはあったけど、あんまり得意ではありませんでした。それが大人になると、急にこのおいしさに気づくんです。四十萬谷本舗では一日におよそ1.2トンのかぶを塩漬けして、ワンシーズンで20数万枚作るのですが、改めて考えてみると、そんなにもみなさんに愛されているってすごいなあって思います」
「一度食べたら忘れられない味でした」
「そうだったんですね! かぶらずしを買ってくださる方って、金沢や石川県とご縁のある方が多いと思うんです。以前旅行に来ていただいたとか、おばあちゃんが好きだった、とか。そういう思い出とともにかぶらずしを買っていただいている、ということは大切にしたいです」
「味の記憶って心に残りますもんね」
しみじみ言うと、四十万谷さんは会社員だったころの話を教えてくれた。
「そうなんですよね。家業を継ぐ前は、食品メーカーで国内外の人事の仕事をしていたので、国も文化も違う人たちと一緒に働くことがあったんです。そんな中でも、みんなで食事をともにすると絆が生まれていったりするもので。ほかにも、仕事や私生活がうまくいかなかったときに先輩が作ってくれたごはんとか、思い出に残る、忘れられない味ってありますよね。そういう食べ物で感じられるしあわせを大事にしていきたいなって思っています」