繰り返しになるが、ヨーゼフ・ボイスという人は、「わたしたちは、誰もがアーティストである」ということを掲げた人である。
それをインタビューの最後になってようやく思い出し、帰り支度をしながら、若江さんに聞いてみた。
「ねえ、本当に誰でもアーティストになれると思いますか?」
「もちろんなれるよ。誰だってなれる! だって俺でもなれたもの。芸術家は素晴らしい職業ですよ! そうだ、あなたもならない?」
そういう若江さんは、本当に生き生きとしていて、「おお、それはいいですね!」と私は答えた。
不思議な高揚感を胸にして、私は美術館を後にした。
もしかして、自分もアーティストになれるのかもしれない、いや、もうすでにアーティストだったりして、などと考えると、この世界の色彩が少し鮮やかに見えて、スキップしたいような気分だった。
ただ、さっきも書いた通り、価値あるアート作品を生み出せるかどうかは、まったく別の次元の話なのだろう。アート作品には、作家の体験してきたこと、旅した世界、読んできた本、日々の思考や考え方など、まさに人生の全てがぎゅっと絞ったレモンのように染み込んでいる。だからアーティストとして生きることは、実はなかなか厄介な人生修行にちがいないのだ。
いやあ、そりゃあ大変だなあ、と苦笑しながら駅に向かった。
改札を通るころになって、あ! と声をあげそうになった。
そういえば、ヨーゼフ・ボイスはなぜコヨーテと一緒に時間を過ごしたのか、ボイスはコヨーテに噛まれなかったのを聞くのをすっかり忘れてしまった。
まあ、いいか。それはまた次回に行った時のお楽しみにとっておこうと思った。
カスヤの森現代美術館 横須賀市平作7-12-13 (JR衣笠駅から徒歩12分)
川内 有緒