未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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わたしたちは誰もが芸術家なのか?

「黒板消し」から始まった小さな美術館がいま伝えたいこと

「カスヤの森現代美術館」

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.113 |10 April 2018
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#7CDやラーメンと同じように

 こうして苦労を重ねてオープンした美術館だが、「できた当初は、知り合いがきてくれても、『本当に(作品の意味が)わからない』とよく言われました」と栄戽さんは微笑む。しかし、それは全く気にする必要がないのだそうだ。
「そもそも(美術作品を)“分かる”というのはありえない。分からなくても当たり前なんです。それよりも感じることです。そこから始まります。分かろうとすること自体が違うのよね。例えば、りんごの絵が描かれた作品があったとして、『これはりんごだ』と(表面的に)描かれているものを「認識」することが、現代美術の楽しみ方ではないのです」(栄戽さん)
 それでは、どういう風にして作品を見ていくといいですか、と聞くと、若江さんは勢いよくこう答えた。
「そんなのヘンな話でさあ、音楽だったら、どうやって聞いたらいいの? なんて考える必要なんかないわけ! ロックやヘビメタやフォークとかあるけど、みんなそれに付いていってるんですよ。でも美術だけが孤立して、分からないといけないんじゃないかと思ってしまう。もしこれが音楽だったら、『現代音楽講座』に通って、『SMAP』というグループがいます……じゃあ、『SMAP』とやらを聞いてみようか、なんて人はいないですよね。それよりも、ただ聞いていればいいわけ。分かろうとしなくていいからまずは、感じよう、そのために美術館に行ってみよう!」(若江さん)
 そう、まずは足を運ぶことから始まるのだ。

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未知の細道 No.113

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。