こうして苦労を重ねてオープンした美術館だが、「できた当初は、知り合いがきてくれても、『本当に(作品の意味が)わからない』とよく言われました」と栄戽さんは微笑む。しかし、それは全く気にする必要がないのだそうだ。
「そもそも(美術作品を)“分かる”というのはありえない。分からなくても当たり前なんです。それよりも感じることです。そこから始まります。分かろうとすること自体が違うのよね。例えば、りんごの絵が描かれた作品があったとして、『これはりんごだ』と(表面的に)描かれているものを「認識」することが、現代美術の楽しみ方ではないのです」(栄戽さん)
それでは、どういう風にして作品を見ていくといいですか、と聞くと、若江さんは勢いよくこう答えた。
「そんなのヘンな話でさあ、音楽だったら、どうやって聞いたらいいの? なんて考える必要なんかないわけ! ロックやヘビメタやフォークとかあるけど、みんなそれに付いていってるんですよ。でも美術だけが孤立して、分からないといけないんじゃないかと思ってしまう。もしこれが音楽だったら、『現代音楽講座』に通って、『SMAP』というグループがいます……じゃあ、『SMAP』とやらを聞いてみようか、なんて人はいないですよね。それよりも、ただ聞いていればいいわけ。分かろうとしなくていいからまずは、感じよう、そのために美術館に行ってみよう!」(若江さん)
そう、まずは足を運ぶことから始まるのだ。
川内 有緒