こうして、コツコツと作品をコレクションし、「カスヤの森現代美術館」は1994年にオープン。構想から20年、夫婦はついに思いを叶えた。
「地元の人たちが気軽にふらりと足を運べる美術館をつくりたい」という思いは、実は建物の造形にも表れているという。話を聞いてみると、美術館の来訪者が最初に目にする高い塔には、単なるデザイン以上の意味がこめられているようだ。
「戦前は、アメリカでもヨーロッパでも日曜日には家族で教会に行きました。でも、いまは教会の代わりに人々は美術館に行くようになりました。だから、かつての教会が持っていた、文化の発信や人々が集まる場という機能を美術館が担っていると考えたのです」
そこで若江夫妻は、ヨーロッパの教会をモチーフにして、自分たちの美術館の建物を設計した。つまり、あの塔には、「地元の人々がふらりと寄れる美術館になりたい」という願いがこめられている。
美術館のなかでも実はそれを感じることができる。入り口には、教会にあるような美しい細工が施された木製のベンチが置かれ、また展示室から展示室へとまっすぐに伸びる廊下は、まるで教会の祭壇に向かう通路のようだ。そして、塔の真下にあるのは温かな雰囲気のカフェ。ここに、人々は集うこともできるのだ。
開館から今年で24年。近隣には横須賀美術館や小さなギャラリーもいくつかでき、少しずつ市民が美術に触れられる場も増えてきて、だいぶ時代は変化した。
川内 有緒