若江さんたちは、ミュージシャンのCDを買うように、気軽に作品を買えるきっかけを作りたいと考え、作品を購入できる展覧会を何度も企画してきた。
「作品を買うことは、アーティストの未来を先取りして、支える機会でもあるんです。それにね、作品って持つと全然違うの。一度買うと、みんなどんどん作品を好きになっていく」(栄戽さん)
作品とは不思議なものだ。ひとつ家に置いただけでも、その空間の雰囲気がガラリと変化する。作品はなにかエネルギーのようなものを発しているのだ。
「ただ、値段が上がっていくなどとは考えない方がいい!」と釘を刺すのは若江さんである。
「芸術は商売の道具ではなくて、大切にして楽しむもの。ラーメンを食べたり、CDを聞いて楽しむのと同じだから。それでも、100点の作品を持っていたら、そのうちにすごいものも紛れているかもしれない。それはそれで楽しいから、100点まで集めましょう! 目標は100点!」
100点ですかー、それはかなり大変な挑戦だけど、夢もありそうだ。思えば、現在は数十億円で取引されるようなセザンヌやゴッホの作品も、当時は街中のギャラリーでごく気軽な価格で買うことができた。
「だから、今この世の中に未来のセザンヌはいるんです。君もどこかで現代のセザンヌに出会っているかもしれない」と若江さんはワクワクした顔で言う。
「そうですね、すぐ横にいるかもしれないですね!」
そう相槌を打つと、「そう! すぐ君の前にいるかもしれない!」と若江さんがものすごい目力で言うので、私は大いに笑わされた。
川内 有緒