未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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わたしたちは誰もが芸術家なのか?

「黒板消し」から始まった小さな美術館がいま伝えたいこと

「カスヤの森現代美術館」

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.113 |10 April 2018
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#8セザンヌはすぐ目の前に

ひし形の屋根を持つ塔の下はカフェ。ランチやお茶をすることもできる。

 若江さんたちは、ミュージシャンのCDを買うように、気軽に作品を買えるきっかけを作りたいと考え、作品を購入できる展覧会を何度も企画してきた。
「作品を買うことは、アーティストの未来を先取りして、支える機会でもあるんです。それにね、作品って持つと全然違うの。一度買うと、みんなどんどん作品を好きになっていく」(栄戽さん)
 作品とは不思議なものだ。ひとつ家に置いただけでも、その空間の雰囲気がガラリと変化する。作品はなにかエネルギーのようなものを発しているのだ。 「ただ、値段が上がっていくなどとは考えない方がいい!」と釘を刺すのは若江さんである。

企画展示室では、様々な現代美術作家の作品を見ることができる。

「芸術は商売の道具ではなくて、大切にして楽しむもの。ラーメンを食べたり、CDを聞いて楽しむのと同じだから。それでも、100点の作品を持っていたら、そのうちにすごいものも紛れているかもしれない。それはそれで楽しいから、100点まで集めましょう! 目標は100点!」
 100点ですかー、それはかなり大変な挑戦だけど、夢もありそうだ。思えば、現在は数十億円で取引されるようなセザンヌやゴッホの作品も、当時は街中のギャラリーでごく気軽な価格で買うことができた。
「だから、今この世の中に未来のセザンヌはいるんです。君もどこかで現代のセザンヌに出会っているかもしれない」と若江さんはワクワクした顔で言う。
「そうですね、すぐ横にいるかもしれないですね!」
 そう相槌を打つと、「そう! すぐ君の前にいるかもしれない!」と若江さんがものすごい目力で言うので、私は大いに笑わされた。

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未知の細道 No.113

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。