神奈川県横須賀市
今年で開館24年を迎える横須賀の「カスヤの森現代美術館」は、ひとつの「黒板消し」の収集から始まった!? よく「難しい」「理解できない」とも言われる現代美術の世界だが、えいっ!と勢いよく扉を開けてみれば、なんとも魅力的な思索の森が広がっていた。
最寄りのICから【E16】横浜横須賀道路「衣笠」を下車
最寄りのICから【E16】横浜横須賀道路「衣笠」を下車
私たちはみなアーティストである、そう説いた芸術家がいる。名前はヨーゼフ・ボイス。現代美術が好きな人ならば、その名を耳にしたことがあるかもしれない。
第二次世界大戦に従軍した後に美術家に転身し、ドローイングに彫刻、パフォーマンスと、幅広い表現で活躍したドイツ人である。ボイスは、生涯を通じて社会活動を行い、創造と行動によって社会を変革させる「社会彫刻」の概念を生み出したことで知られている。彼にとっては、この社会に生きるすべての人がアーティストであるという。
……と、ゴチャゴチャと書いてみたものの、私自身は現代美術にはそう明るくないので、これ以上のことは知らない。ただ、大学の授業でたまたま彼の名を耳にしたことがあった(一応は芸術系の大学出身なので)。そして、ある作品のことが強く印象に残っていた。
それは、『コヨーテ 私はアメリカが好き、アメリカも私が好き』という作品だった。
作家自身が一週間、干し草などが詰まったギャラリーのなかでコヨーテと一緒に暮らし、だんだんとコヨーテと一体化していくもの。ボイスが53歳の時の作品である。
コヨーテって、人に噛みつかないの? なぜコヨーテだったの? それと社会彫刻ってどう関係があるんだろう?
……などと、大学生の私は様々な疑問を抱いたわけだが、それらの謎は解かれないままに心の引き出しにしまいこまれた。
あれから25年————。
ひょんなことから、そんなヨーゼフ・ボイスの作品を多数コレクションし、常設展示している小さな私立美術館が横須賀にあることを知った。
どんな人たちが運営しているのだろうと調べてみると、自身もアーティストであるご夫婦が運営しているようだ。
たまらなく行ってみたくなった。
私たちの誰もがアーティストになれるというボイスの考えは実に魅力的なものだが、本当にそうなのかを知りたくなったのだ。ボイスの作品をよく知るその夫婦ならば、答えを知っているのかもしれない————。
いや、少なくとも、コヨーテがボイスを噛まなかったどうかくらいは知っているだろう。
目指したのは、三浦半島の横須賀にある「カスヤの森現代美術館」である。
川内 有緒