未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
112

山梨県甲州市

山梨県甲州市に世にも珍しい「野草屋さん」がある。野草を摘み、それを生活に取り入れることを提案するお店だ。足を踏み入れると、そこはまるで魔女のアトリエ。不思議な瓶や草が並ぶその空間で聞いた“つちころび八起き”な人生の物語。

文= 川内有緒
写真= 川内有緒
未知の細道 No.112 |25 April 2018
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
山梨県甲州市

最寄りのICから【E20】中央自動車道(西宮線)「勝沼」を下車

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#1世にも不思議な畑へようこそ

「ここが私の畑です」
 そう語るのは、鶴岡舞子さんという笑顔が印象的な女性である。ただ、その視線の先には、雑草が生い茂る広大な原っぱがあるばかり。
 ええと、これが畑ですか……!?
 作物の影も形もない。草原ははるか遠くまで続き、少し霞んだ山の稜線が見えた。 
「広さは8000平米です」と聞いて、東京ドームの◯個分というよくテレビなどで耳にする単位が頭に浮かぶ(実際は東京ドームの約6分の1)。
 もともとは耕作放棄地で、舞子さんが農家の地主さんに頼んで借り受けたものだ。
「あ、気をつけて、そこらへんは踏まないでくださいね〜」
 一緒に畑の中に入っていくと、そう優しく注意される。しかし、どこもかしこも雑草だらけなので、いったいどう気をつけたらいいのか、さっぱりわからなかった。
 うららかな春の日だった。あたりにはやわらかな風が吹き、桜が咲き乱れ、「ホーホケキョ!」というウグイスの鳴き声が響きわたる。
「かなりほのぼのしてるんですけど、内心ではハラハラしてます」
と、舞子さんはどこか楽しそうに言いながら、原っぱの中ほどにずんずん進んでいく。
「ええと、これから今日収穫するのは……」と小さなノートをめくる。
「セイタカアワダチソウ、よもぎ、カキドオシの三種類ですね」
 そう言うと、舞子さんはさっとしゃがみこんだ。手には、使い込まれた鎌とごく普通の洗面器がひとつ。いよいよ収穫が始まるらしい。春は、舞子さんにとってもっとも忙しい季節。
 そう、ここは野草の畑なのである。

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未知の細道 No.112

川内 有緒

日本大学芸術学部卒、ジョージタウン大学にて修士号を取得。
コンサルティング会社やシンクタンクに勤務し、中南米社会の研究にいそしむ。その合間に南米やアジアの少数民族や辺境の地への旅の記録を、雑誌や機内誌に発表。2004年からフランス・パリの国際機関に5年半勤務したあと、フリーランスに。現在は東京を拠点に、おもしろいモノや人を探して旅を続ける。書籍、コラムやルポを書くかたわら、イベントの企画やアートスペース「山小屋」も運営。著書に、パリで働く日本人の人生を追ったノンフィクション、『パリでメシを食う。』『バウルを探して〜地球の片隅に伝わる秘密の歌〜』(幻冬舎)がある。「空をゆく巨人」で第16回開高健ノンフィクション賞受賞。

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。