山梨県甲州市
山梨県甲州市に世にも珍しい「野草屋さん」がある。野草を摘み、それを生活に取り入れることを提案するお店だ。足を踏み入れると、そこはまるで魔女のアトリエ。不思議な瓶や草が並ぶその空間で聞いた“つちころび八起き”な人生の物語。
最寄りのICから【E20】中央自動車道(西宮線)「勝沼」を下車
最寄りのICから【E20】中央自動車道(西宮線)「勝沼」を下車
「ここが私の畑です」
そう語るのは、鶴岡舞子さんという笑顔が印象的な女性である。ただ、その視線の先には、雑草が生い茂る広大な原っぱがあるばかり。
ええと、これが畑ですか……!?
作物の影も形もない。草原ははるか遠くまで続き、少し霞んだ山の稜線が見えた。
「広さは8000平米です」と聞いて、東京ドームの◯個分というよくテレビなどで耳にする単位が頭に浮かぶ(実際は東京ドームの約6分の1)。
もともとは耕作放棄地で、舞子さんが農家の地主さんに頼んで借り受けたものだ。
「あ、気をつけて、そこらへんは踏まないでくださいね〜」
一緒に畑の中に入っていくと、そう優しく注意される。しかし、どこもかしこも雑草だらけなので、いったいどう気をつけたらいいのか、さっぱりわからなかった。
うららかな春の日だった。あたりにはやわらかな風が吹き、桜が咲き乱れ、「ホーホケキョ!」というウグイスの鳴き声が響きわたる。
「かなりほのぼのしてるんですけど、内心ではハラハラしてます」
と、舞子さんはどこか楽しそうに言いながら、原っぱの中ほどにずんずん進んでいく。
「ええと、これから今日収穫するのは……」と小さなノートをめくる。
「セイタカアワダチソウ、よもぎ、カキドオシの三種類ですね」
そう言うと、舞子さんはさっとしゃがみこんだ。手には、使い込まれた鎌とごく普通の洗面器がひとつ。いよいよ収穫が始まるらしい。春は、舞子さんにとってもっとも忙しい季節。
そう、ここは野草の畑なのである。
川内 有緒